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いまから言うこと
縦にはまった木の棒をつかみ、オタキさんこれ、と握り飯のはいったつつみをふってみせた。
四つん這いで奥からうごいてきたオタキは、棒をつかんだオウメの手をうえからにぎり、顔をよせ、元気かい?若番頭さんはどうだい?と涙をながした。
うなずいて、格子のすきまから握り飯をさしいれたオウメは、それにのばされたオタキの手をつかんだ。
「 オタキさん。 あんた、殺してないよね?《奥様》のこと、突き落としてなんか、いないだろう?」
「・・・・・・」
オウメの目をみて、オタキはまた涙をながし、ふっと、わらった。
「 ・・・オウメちゃん、 ―― いまからあたしがいうこと、だれにもいっちゃ、いけないよ」
こわい顔ではなかったのに、オウメはその眼と合って、なんだかぞっとしながらうなずいた。




