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その日から
オタキがオウメの両肩をつかみ、ささやくように、さっきの《奥様》のようなやさしいこえできいた。
「 ―― おくさまは、あんたといつも、どのあたりでわかれるんだい?」
きゅうに肩が重くなったようにかんじたオウメは、いつもわかれるお寺のちかくの道をおしえた。
その日から、オウメは、オタキのことが、こわくなってしまった。
店の中でオタキはあいかわらず《奥様》を「あんな女」よばわりし、《奥様》の身の回りのことはかわらずオウメだけがした。
ほかの掃除や炊事はいっしょにしたが、まえよりもはなすことが減った。
とくに、《奥様》について外にいったときなど、もどってきたオウメとは、ひとことも口をきかない。
そりゃ、ついてゆくだけで小遣いをもらえるのが、腹立たしいのだろうとオウメも思った。だが、それで小遣いをことわるようなことは考えなかった。
いちど、オタキはもしかしてあとをついてきているかも、とおもい、何度か振り返ってみたことがあるが、オタキをみたことはない。