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『 おぼえてろ 』
なんとなく『世話』の意味がわかったオウメは、もうここから自分だけ消えたかった。
《奥様》とオタキは、女同士の意地と見栄のはりあいをしているのだ。
《奥様》は勝ったような顔をして、行ってしまった。
のこされたオウメは、まだ消えた《奥様》の背をおっているようなタキより先に、動いてもいいのかわからない。
「 ・・・・おぼえてろ・・・ 」
オタキが、かすれたような声でつぶやいたのがきこえ、オウメは《奥様》からうけとってしまった袋をぎゅっとにぎり、「かえすよ」となきそうな声をだした。
「旦那様に、返すから」
「いや、いいんだって、あの女が言ってたから、それはあんたの銭だ。もらっておきな」
言って振り返ったオタキは、もういつもの顔で、オウメにとびつかれてみだれた着物をなおしながら、たしかにあんたはただ《奥様》にいわれるままついて行ってるだけの女中だもの、とほつれた髪もなおした。