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もらった銭
オウメはまえのことなどしらないから、それがよくわからなかった。
ただ、《奥様》は朝は遅くまで寝ていて、食事はとらずに梅干しと昆布茶だけ口にして、あとは三味線をひいているか、すぐにどこかへでかける。
そのときには、オウメがついてゆくことになるのだが、たいていは、「オウメはこれで、すきなものでも食べておいで」と銭をわたされて、あとでまた、ここでおちあうからね、といいふくめられて、《奥様》はどこかへ行ってしまう。
この銭をぜんぶつかわないでオウメは少しずつためているのだが、それはオタキに言っていないし、いわないでおこうと思っている。
なのに、 ―― あるとき、眉をつりあげたオタキに小さな行李をかってにあけられ、その銭をつつんだ袋を、これはどうした、とつきつけられた。