きこえたか
ヒコイチのお友達のぼっちゃまのところで、通いの手伝いのばあさんに、西堀の隠居のところの黒猫は『ねこまた』だろう?ととつぜんきかれ・・・。 けっきょくいやなネコマタのはなしをきかされるヒコイチでした。。。。
のみそこねた大福を、あやうくつまらせるところだった。
ばあさんはさっきとおなじような声で、あれをぼっちゃまに寄らすなよ、とヒコイチに命じた。
つかんだ湯呑をあおって、どうにか一度むせただけで大福は喉をおちていったが、言い返す言葉がでてこない。
ばあさんは溜めた水にフキ(蕗)をさらし、こちらを振り返った。
「きこえたか」
「・・・いや、きこえたけどよ・・・」
言葉はでたが、いいたかったことはちがう。
ばあさんは、ふん、といきをもらすと、鍋にお湯をわかしはじめた。
一条のお坊ちゃまこと一条ノブタカの住まいは洋館だが、台所はまだまだそれほどかわりはなく、水も外にある井戸をつかっている。
煮炊きも古く立派なかまどで薪をつかい、焼き物は七輪の炭の上であぶるのがいちばんと、ばあさんはずっと言っている。
かまどにかけた大鍋の水が、ぶくり、とわきはじめていた。
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