第72話 指が思い出す
えー!?
樹里さんのマモンって一人でフランスに帰っちゃった人。それが、この人?
千沙とは反対に、シルヴィーの顔は明るくなっている
「チサ、ナガサキに帰ったらジュリにちゃんと伝えてね。ジュリと一緒に暮らせるようになるのを、マモンはとても楽しみにしてるって。もうすぐだからね」
「ちょ、ちょっと待って下さい。あ、あなたが樹里さんのお母さんって本当なんですか?」
「そうよ。似てないかしらね。証拠って言われても困るんだけど、ジュリの誕生日は6月10日よ。瞳はライトヘーゼルで、髪はゴールドに近いブロンズ。これじゃ駄目かしら。あ、そうそう」
シルヴィーはバッグからスマホを取り出す。チャッチャと画面にタッチして、未来と千沙に向けた。
「ほら。これがジュリの子どもの頃よ。小学生の時、眼鏡橋で撮った写真」
そこには、ブロンズの髪をおさげにした子どもの樹里と、目の前にいるシルヴィーが映っていた。今より20年以上若い感じだ。
「これが樹里さん…。可愛い!」
「本当だ、子役モデルみたい。髪、長かったのね」
千沙と未来は小声で話す。
「これで証拠になった?」
「は、はい。びっくりしました。そ、それで一緒に暮らすって、また、マダム・シルヴィーが長崎に戻って来られるってことですか?」
マダム・ルフェーブルは首を傾げた。
「いいえ、ジュリがパリに来るのよ、多分もうすぐ」
は? 千沙は豆鉄砲を食らったような顔になった。
「いつだったかな」
シルヴィーは、スリープになったスマホの画面にタッチして、ちょんちょんとロックを解除する。
あれ?!
それを見て千沙が気付いた。
「マダム・シルヴィー。カードのパスワードってスマホのパスワードと一緒だったりしませんか?」
シルヴィーは目をまん丸くし、口を開ける。手がスマホを持ったまま頭上にするするっと上がった。
“Ça y est!!”
千沙はにんまりとする。
「Très bien! チサの言った通りだった! 忘れた事を忘れてたら指が思い出したわよ! ありがとう。慌てて銀行に行かなくて本当に良かった」
千沙もホッとした。しかし問題は何も解決していない。そう、樹里のことが。




