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怖がり屋さんは失せもの探偵  作者: Suzugranpa
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第59話 まだ早い

 千沙が葵ちゃんを抱っこした店長と話をしている間に、朔がこっそり店内を見ていることに若葉は気づいた。


「何かお探し? もしかして千沙ちゃんへのプレゼント?」

「え、あ、はい。よく判りましたね」

「すぐに判るわよ。相談に乗るよ」

「ぜ、是非お願いします。ウチ、男ばっかだから女の子へのクリスマスって見当つかなくて」

「じゃ、こっそり探そうか。こんなのどう?」


 若葉が差し出したのはスヌード。優しいグレーで柔らかそうだ。千沙に似合いそうである。


「朝、慌てて出て行く時もそのまま被れるから楽なのよ」

「へぇ、こんなのあるんだ。バイクにも良さげだなぁ」

「おソロってのもあるわねぇ」

「いや、それはちょっとまだ…。目立つし」


 若葉はクルっと身を返すと今度は小物を持って来た。


「これならおソロって判りにくいよ。組紐だから和風で温かみもあるし」


 それは組紐で出来たブレスレット。価格も手頃。大きさと色合いが違うものの、並べると明らかにペアと判る。


「おお」


 気に入った朔はこっそりペアのブレスレットを買い求めた。勿論片方はプレゼント仕様で。


+++


 翌日、千沙と朔は揃って樹里に、前日の顛末を報告していた。偶然が重なったとは言え、鮮やかな解決に樹里は感心した。


「そんなの、よく気がついたな」

「大トトロの話を聞かなかったら全然判りませんでした」

「そこへ着地させるところが、実際なかなか出来ない事だよ」


 千沙は少し照れた。褒め過ぎだよ…。しかし樹里は背筋を伸ばした。


「それでその報酬がこのクリスマスリースと梯子サンタってか? リースは判るがこのサンタは何をしようとしてんだ? 泥棒か?」


 樹里はテーブル上の大きなクリスマスリースと梯子を登っているサンタのぬいぐるみを指した。


「あ、えっと、煙突から入るために屋根に登ろうとして、梯子で…」

「サンタはそりで飛んで来るんじゃなかったか?」

「あ。えっと、あの、ダイエットのために歩いて回ろうとしてるサンタさんかもで…」


 ショップからの帰りに、浜崎店長が店内で販売していた品物を幾つかピックアップして、千沙と朔にプレゼントしてくれたのだ。その中で可愛いトナカイのマスコットは早速千沙の通学リュックにぶら下がり、サンタ帽を被った雪ダルマは、朔の原付にシートバックを背もたれにしてタンデム乗車している。リースと梯子サンタは、スタジオ・ジュリ用として持って帰って来たものだった。


 朔がしどろもどろの千沙をちらっと見て、援護した。


「あの、スタジオ・ジュリにもクリスマスの飾りが欲しいって千沙ちゃんが言ってたから、丁度いいと俺も思いました。これ、組み合わせて入口の扉に付けたらいいと思います」

「ふむ」


 朔は早速入口扉にリースを取り付け、そのリースに梯子を掛けてよじ登るサンタを表現してみせる。そして肩から掛けていたボディバッグから丸いものを二つ取り出した。


「なにそれ? ボール?」

「うん。出掛けにオヤジがくれたんだ。こんなの打てやしねえよって」


 朔が千沙と樹里に見せたのはゴルフボール。表面に可愛い子どもの顔が描いてある。きっと大会の賞品なのだろう。朔はリースの輪の中にゴルフボールをねじ込む。リースに厚みがあるので、鳥の巣の中の卵のように、ゴルフボールは笑顔を見せてリースの輪っかに鎮座した。


「瞬間接着剤で固定すると落ちないと思います」


 朔が頭を掻いて説明する。樹里は歩道の端まで下がって目を細めた。


「悪くないな。リースが丸窓になって、サンタを待ってる子どもが顔を覗かせてる。そこへ梯子をよじ登ってサンタが向かってるって訳だな。よし、今回は朔のアイディアに免じてこれで勘弁しよう」


 千沙も感心した。ナイスアイディア。千沙は朔を誇らしく思いつつ、一件落着にほっとして店内に入った。きっと朔も子どもが好きなんだ。そうよね、あんなに可愛い葵ちゃん見ちゃったし…。千沙は樹里に笑顔を向ける。


「あの。だけど、小さい子どもって可愛いですねー。明佳ちゃんも葵ちゃんも」


 樹里は千沙をぎょろりと見る。


「千沙。悪いが、まだやめとけ。生計の見込みをたててからだ。結構お金かかるんだよ、子どもって。それに流石に高校に保育室はないだろ。子どもが子どもを育てるのはムズいよ」


 え? なにそれ? ええっ? 樹里さんもしかして、そんな風に聞こえたの? 千沙は慌てて手を振り回す。


「そ、そんなつもりじゃ…ない…です」


 しかし、隣で朔は満更でもない顔だった。


 ふうむ、千沙ちゃんと俺の子ども…悪くない。千沙ちゃんに似たら超怖がり屋だ。二人まとめて守ってやらなきゃ。差し当たり、まずは名前を考えよう。早過ぎる? いや、ずっと温めておけばいいじゃない。このまま上手く行けば、どうせいつかは考えるものだから。


 スタジオ・ジュリからの帰り道、原付エイプを走らせながら朔は思案に耽った。


 最近の流行りは…、いや、ブームの名前は止めよう。幼稚園や小学校で同じクラスにたくさん居そうだ。今も昔もいい名前だって思われて、本人も幸せになれるような名前…。 


 お? 千沙をひっくり返して『さち』ってのは? 同じ漢字を使うのはややこしいけど、『沙』の字は受け継がせたいな。さらさらっと水辺のきれいな真砂ってイメージで、俺も好きな字だ。えーっと『ち』は…。


 信号待ちで停止した朔は、満足してタンデム乗車中の雪ダルマを振り返った。街の灯りに時折輝くその黒い瞳が、やがてやって来るであろう『さっちゃん』の黒い瞳に重なって見えた。


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