第57話 プレゼントは一つ
「葵ちゃんの誕生日って12月ですか?」
ショーケースを覗き込んでいた朔が振り返り、若葉に聞いた。
「そうなの。もうすぐ」
「それって、誕生日とクリスマスのプレゼントがまとめられちゃう、損なパターンですよね」
「そうなのよ。だから葵ちゃん、クリスマスプレゼントをもうゲットしてるのよ」
「はは、サンタさんを待たなくていいのが、いいのか悪いのか。まんまとプレゼントを一つ逃してるんですけどね」
言いながら朔はショーケースの下から何やらつまみ上げた。
「これって何だろ。マジックテープみたいなのがついてる」
それはオレンジ色のプラスティックで出来た円錐形。底面にマジックテープが貼られている。
「もう一つありますねえ、壁際に緑色のが。取れるかな…」
朔がショーケースの下に潜り込む。千沙も一緒に覗き込んだ。丁度、ショーウィンドウのくぐり戸の下に転がっている。若葉が声を上げた。
「ああ、これ葵ちゃんのおもちゃなのよ。真ん中でカットできる野菜。断面がマジックテープでくっついてるだけだから、プラスティックの包丁でストンって切れるの。おままごと用ね」
朔が床に這って手を伸ばし、緑色のものを取ると、起き上がって埃を払う。しかし、千沙はショーケースの下を覗き込んだままだ。朔は若葉に緑色のものを差し出した。
「これもですか? やっぱりマジックテープが貼ってある」
「そう。そっちはピーマンの下半分でこっちがニンジンの下半分」
「なるほど…」
「同じようなおもちゃの果物を、クリスマス飾りでショーケースの中に入れたのよ。葵ちゃんも飾り付けをしたいって言ってね、イチゴとリンゴとバナナだっけ、葵ちゃんが中に置いたのよ。でも野菜はなかったように思うけど」
朔は先程撮影したショーケースのスマホ写真を拡大する。
「あ、ホントだ。滑り台の階段に置いてある。あ、ピーマンの半分とニンジンの半分はサンタさんの服にくっついてます」
ショーケースの下を覗いていた千沙が顔を上げる。
「ねえ、朔。大人はここから這って行って、あのくぐり戸からショーウィンドウに入るなんて出来ないよね」
「うん、ちょっと狭過ぎる。飾りつけの時はショーケースを動かして入ったんだろ?」
「そうよね。その時、葵ちゃんも一緒に入ったのよね」
千沙は朔が拾ったニンジンとピーマンの片割れに目をやる。
「だから葵ちゃん、もう一度入ろうとして、その野菜を持ってこの下を這い這いしたんじゃない? 遊び場って思ってるかも」
「なるほど、その時に半分千切れちゃったのか」
「多分。でもさ、サンタさんの服にはマジックテープついてないのに野菜がくっついてるのよね」
すると若葉が写真を覗き込んで言った。
「サンタさんの服ね、トイクロスって布で出来てるのよ。それならマジックテープがくっつくの。柔らかい生地だから子どもにも優しいの。最近はぬいぐるみにも使ったりするのよ」
「へぇ、そうなんですか…。あれ?」
若葉の言葉が引っ掛かった千沙は浜崎店長と葵ちゃんに近づき、葵ちゃんに話し掛ける。
「葵ちゃん、プレゼントは何もらったの?」
「ととろー」
「トトロ?」
「うん! おっきなトトロー」
浜崎店長が笑って付け足した。
「去年さぁ、トトロ買ってあげようって思って一緒に見に行ったら、葵は青い、ほら、中トトロだっけ、あれがいいって言ってね。主役の大トトロが不在だったの。今年は丁度柔らかい大トトロのぬいぐるみがあったのよ。これで来年白いちっちゃいトトロを揃えたらファミリー完成なの」
千沙は葵ちゃんを微笑ましく思った。去年の葵ちゃんは大きなトトロは怖かったのかな。大きいのと中トトロと、二つ揃って良かったよね。でもトトロには…。
ん?
千沙の頭に、トトロたちが駈け抜けるシーンが浮かぶ。千沙はその姿をメモ帳にスケッチしてみた。
!!




