第56話 レディースショップ
仕方なく千沙は朔に同行してもらい、若葉の働くショップを訪れた。老舗商店街に近い商業ビルの1階にあり、フリルのついた可愛いオーニングの下の一角には、なるほどショーウィンドウがある。
こ、こんなお洒落なお店、梅島では有り得ない…。千沙はドキドキしながらショーウィンドウを眺めた。朔が目ざとく観察している。
「あ、ホントだ。ほら、あそこにいるサンタさん、手ぶらだよ」
千沙も覗き込む。ショーウィンドウの下の方は内部からスノースプレイを吹き付けられ見えなくなっているが、樅の木や、どういう訳か幼児用滑り台などの遊具があって、サンタは滑り台の上に座り、トナカイが2頭、その下に立っていて、果物のおもちゃが幾つか見える。朔がスマホで1枚写真を撮って、二人は入口に向かう。
「いらっしゃいませ!」
声を上げたのは当の若葉だった。ママには見えない若々しさである。
「あ、千沙ちゃん!」
「こんにちは。梢さんからご依頼を伺いました。こっちはえっと…長沖君、あ、初めてじゃなかった…」
若葉は笑った。
「彼氏よね。テーマパークではガイドさんだったけどね。よろしくお願いします」
「あ、はい。今は千沙ちゃんにこき使われてる探偵助手の長沖朔です」
朔も笑った。普段は大人しいのに、人づきあいは上手だ。
「それで、えっと…店長!」
「ふぁい!」
店の奥から、やや恰幅の良い女性が現れた。年齢は若葉とあまり変わらないように見える。
「こちらが店長の浜崎 杏子さん」
「若葉ちゃんが言ってた探偵さん? 浜崎です。高校生なんだってね、アニメみたいねぇ。事情は聞いてくれた?」
「はい。サンタさんの袋が行方不明って」
「そうなのよー、サンタさんも自分でプレゼントを配り歩かなくても、宅配便で送ってんじゃないのーって笑ってんだけどね、やっぱ見てくれは締まりがないのよねぇ。定年になって居場所のない爺さんみたいでさ。はっはっ」
店長は豪快に笑う。楽しい人だ。千沙はメモ帳とペンを取り出した。
「で、いつから無くなったんですか?」
「あらー、今どきの高校生なのにアナログねー。てっきりスマホで録音とかするのかと思った」
「えっと、あたしはこっちの方が印象に残るので」
「ふうん。それがさ、判んないのよねー、今月の初めに模様替えしてさ、サンタさんはその時に置いたんだけど、今週、外からガラス拭いてて若葉ちゃんが気がついたのよ。若葉ちゃんが居なかったら多分誰も気がついてないよ。可哀想なサンタ爺さん。あっはっは」
脇から朔が聞いた。
「あそこにはどうやって入るんですか?」
「ああ、後ろに小さなくぐり戸があるのよ。長いものを入れる時は結構大変。だからマネキンもばらして入れて、中で組み立てるの。と言っても私はお腹がつっかえて入れないから、他の子に頼むんだけどねー」
「後ろ、ですか」
一同はぞろぞろとショーウィンドウの裏側に移動する。
「見えないでしょ。普段はショーケースに隠れてるからさ、だから余計に不思議なのよ。泥棒だって重いショーケース動かさなきゃ入れないからさ、そんな形跡全くないしね。そもそもサンタさんの袋の中って紙を丸めて入れてあるだけだから何の価値もないし、泥棒だって動機がないよね」
その時、店のドアがキィと開いた。若葉がすかさず『いらっしゃいませ』と声を掛ける。
「ママー」
返って来たのは幼児の声だった。次いで大人の声がする。
「あー、杏子、葵ちゃんがどうしてもママに会いたいって聞かないのよ」
店長が突然母の顔になって、入口の方を振り向く。
「あれー、葵、どうしたのぉ?」
「葵ちゃん、ママに聞きたいことがあるんだって。ばぁばは先におうちに帰っちゃうよー」
「うん! ばぁば、バイバイ」
ばぁばと呼ばれた年配の女性は、すぐに店から出て行った。若葉が千沙と朔に小声で説明する。
「店長の娘さんの葵ちゃんと、店長のお母さんですよ。葵ちゃんはもうすぐ3歳で、保育園の送り迎えは、同居されてるお母さんがやっていらっしゃるの。やっぱり便利よね、自分の親がいると」
高校生の二人は実感が湧かないながら、一応頷いた。
「ママぁ、あおいの おたんじょうかい いつするのー?」
幼い声が店内に響いた。




