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怖がり屋さんは失せもの探偵  作者: Suzugranpa
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第53話 二人の1ページ目

「な、なんで?」

「だってさ、普段無口で男子とは絶対喋らない千沙ちゃんが、俺んとこにはトコトコ来て喋るんだもの」

「あ…」


 朔は笑った。


「そう言う無防備なところが可愛いんだよな、千沙ちゃんは」

「えっと、えっと…」

「あのさ、ちょっと歩かない? 月も綺麗だし」

「う、うん」


 二人は並んで坂道を下り出す。ど、どうしよう、話が全然違う。あたしと朔が付き合ってるって、いや、実際はまだ付き合ってないんだけど、これは何ていう状態なのかな、固体でもなく液体でもない、あ、コロイドって習ったっけ。あれ、ゲルとかゾルって言うのも聞いた。流動性がどうとか言ってたような…。千沙は場違いの思考回路にフルスロットルで逃げ込み始めた。


「もしかして千沙ちゃん、俺が竹澤さんと付き合ってるとでも思ってた?」

「あ、あの、はい…」

「なるほど。それで元気なかったのか。まだヒミツだけど、彼女はちゃんと彼氏ゲットしたよ。そのうちクラスでも判るから」

「そ、そうなの?」

「うん。それで今度は俺が女子の心理について相談に乗って貰ってた。千沙ちゃんの心理について」

「え」


「竹澤さん、恋は決断だよって。千沙ちゃんの性格からして、俺が追いかけるしかない。すぐ行け!って」

「そ、そうだった…の」

「だから、図書室から必死で追いかけて来た」


 恋は決断…、あの本、役に立つんだ。瑠依はゾルやゲルなんて中途半端を一蹴してくれたんだ。流石は女王クィーン


「それで千沙ちゃん」

「え? は、はい」


 千沙はコロイドから引き上げられる。そ、そうだ、ゾルやゲルはどうでもいい…。


 朔は街路樹の陰で歩を止め、千沙の方を向いた。


「千沙ちゃん、俺と本気で付き合って欲しい」

「あ…」

「周囲がどう思おうがどうでもいいんだけど、俺は千沙ちゃんが好きで全力で守りたいと思ってる」


 !!!


 千沙の胸に待望の弾が撃ち込まれた。朔の顔がキリっと見える。そ、そうなんだ。そ、それで…、


 千沙は自分に問う。あたしの気持ちは…この数日で思い知った。朔は追いかけて来てくれたのよ。今さらながら、中学時代、毎日眺めた海峡が思い浮かぶ。 


 跳べ! チサ!


「あの、あたしね、島にいた頃、毎日目の前の海を見てたの。向こうの町が見える小さな海峡なんだけど、あたしにとっては大きな海。海を見るのは好きだったけど、ここを越えてゆくのは怖いなあって毎日思ってた。だけど、島の分校が無くなって越えなくちゃいけなくなって、目を瞑って越えてきたら、今は良かったなあって思うの。朔にも会えたし、他にもいろんな人に会えて、島じゃこんなことは絶対なかった」


 千沙は朔を見上げた。


「それで樹里さんの依頼もいろいろやってきて、あたしでも出来るじゃないとか変に自信持っちゃったんだけど、小巻さんの時に、やっぱり一人じゃ駄目だって思い知ったの。だから、朔、あたしからもお願い。これからもずっと一緒に居てくれる? やっぱり朔を誰かに取られるのは… 、やだ」


 朔の頬も紅潮している。


「も、勿論だよ。ずっと一緒に居るよ」


 千沙も赤くなって俯く。わ、渡っちゃった…今度は大きな海峡を。


 朔が一歩近づき手を伸ばした。千沙はそのまま朔の両腕の間にすっぽり包み込まれる。え? 顔を上げると朔の顔が近づく。あ、こ、これ樹里さんに報告しなきゃいけないやつ? あーそんなのどうでも…いい…んん。


 二人は溶けあって月の光に呑み込まれた。


+++


 朔と手をつなぎ、滅茶苦茶照れながら千沙は坂道を歩き始める。一気にこうなるとは…お月さまも笑いながら照れている。瑠依にお礼言わなきゃ。


「あー良かった」


 朔は息を吐き出した。


「千沙ちゃんが海を渡って来てくれて本当に良かった。分校にも感謝だよ。また島に帰るって言われたらどうしようと思ったよ。今度は俺が泳いででも追っかけようとマジで思ってた」


 千沙はそんな朔の腕に手を絡める。有難う、朔。きっとこれは運命なの。あたしはもうどこにも行かない。


 背後から車のヘッドライトがサッと射して、白いSUVが二人を追い抜いてゆく。これからこうやって堂々と一緒に帰れるんだ。尤も、クラスのみんなに今さら報告は要らなさそうだけど。


 すると、先程のSUVが少し前で急停車した。ドライバー席の窓がするするっと降りる。


「水取さん! 長沖君!」


 窓から精悍な顔が現れた。


「あ」


 それは小巻さんの彼氏。慌てて道を渡って車に近づくと、助手席で小巻さんも手を振っている。一緒なんだ。


「乗って行きなよ。適当なところまで送るから」

「あ、有難うございます」


 朔と千沙はSUVの後部席に収まった。助手席から小巻さんが振り向いて話し掛ける。


「千沙ちゃん、ごめんね、報告にも行かないで。お陰様で上手く行ってるから。カレシさんにも大活躍頂いて、あのお婆ちゃんの言ったこと、しみじみ感じたのよ。本当に有難う」


 良かった。泣き崩れる小巻さんの姿が、今は光り輝く小巻さんに置き換わった。千沙は思った。この二人の物語に大切な1ページが加わったんだ。あたしたちも書き始めなきゃ。


『付き合いは高校の同級生から。キスは高1の満月の夜…』


 千沙は後部席で一人、思いっ切り赤くなった。


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