第51話 恋は決断
翌日から千沙は朔に話し掛けるのをきっぱりと止めた。唯一相談できる相手だった未来は今やパリのJK。メッセージのやり取りでは心許ない。いや、そもそも相談にもならない。朔はただの友だちって自分で言ってたんだから。もしこれが恋と言う気持ちだったとしても…、そう、あの本のタイトル通りだ。恋は決断。気持ちを捨てる場合も同じことだろう。
千沙がクラスの様子をそれとなく見ていると、やはり瑠依は朔に、にこやかに話し掛けている。朔も満更じゃなさそうだし『良かったじゃん』とか笑っている。あー、完全に成立したんだ。じゅ、樹里さんに、なんて言えばいいんだろう。いや、樹里さんにはあたしが朔を好きだなんて一言も言ってない。勝手に樹里さんが言ってるだけだ。だから何も言わなくていい筈。賢い樹里さんのことだ、雰囲気で察してくれるだろう。
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一方の朔も不審な思いに駆られていた。時々やって来て天然な質問をしてゆく千沙が、このところさっぱり来ないのだ。スマホにメッセージを入れても既読スルー。朔が千沙の方を見ても、目を合わそうとしない。いや、寧ろ顔を背け、避けられてる。どうしたんだろ。こういう女子の心境がさっぱり判らない。竹澤さんにでも聞いてみるかな。あ、竹澤さんが読んだって言ってた本に、こういう心理は書いてあるのかな。でも、あれを俺が図書室で借りるのは勇気要るしなぁ。
確かに千沙ちゃんの気持ちをちゃんとは聞いた事はない。俺の方は匂わせたつもりなんだけど、ド天然の千沙ちゃんは、ド天然にスルーだったのか。改めて千沙ちゃんに声を掛けようにも、授業が終わるとプイと帰ってしまう。部活やってないし、お店があるから仕方ないんだろうけど。
どうしたもんだか。
朔は朔で思案に暮れた。
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あの日以来、図書室には足が向かなかった千沙だが、日が経つと逆に吹っ切れて来た。そう、図書室が悪い訳じゃないし、瑠依と朔が毎日図書室で放課後デートをしているとも思えない。
千沙は帰り道、思い切って図書室に寄ってみた。試験前を強調してスタジオ・ジュリの手伝いも軽減してもらっている。頭の中から朔を追い払い、千沙は窓際の個人ブースで教科書を拡げた。
その頃、朔は図書室前をウロウロしていた。結局、あの本を借りてみようかと思ってやって来たものの、実際に入るとなって二の足を踏んでいたのだ。そこへ瑠依が通りがかった。
「長沖君!」
「あ、竹澤さん。あれ、一人? アイツはどうしたの?」
「部活よ。秋の大会終わったのに試験直前までは練習なんだって。つまんない」
「そっか。ま、弱小サッカー部のエースなんだから仕方ねえな」
「長沖君にも手伝って欲しいって随分言ってたよ。で、今日は一人で勉強?」
「ん? いや、ちょっと本でも借りようかと…」
言いかけた朔は本のタイトルを反芻した。恋は決断。やっぱ竹澤さんに聞いてみるかな。彼女の恋は成就したところだし、フレッシュな恋愛感覚はまだ健在だろう。
「あのさ、ちょっと相談、いい?」
「え? いいけど、長沖君が私に相談ってどうしたの? ケンカでもした?」
「いや、そうじゃなくてって、まあその話なんだけど…」
二人はこっそり図書室に入り、また奥まったブースへ向かった。朔の目に窓際で千沙が背を丸めて勉強しているのがちらっと目に入る。その姿を見て見ぬふりをしながら歩く朔の心は少なからず疼いた。




