表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怖がり屋さんは失せもの探偵  作者: Suzugranpa
51/81

第50話 ちぢにものこそ

「それでさ、本にね…あ!」


 瑠依が両手で口をふさぎ、言葉を切った。


「忘れて来ちゃった!さっきの本。向こうの窓際で読んでたの、『恋は決断』って本。長沖君が通りがかったから慌てて追いかけて放りっぱなし。取って来る!」


 瑠依は可愛さ全開、頬を赤らめて小声で朔に話し掛けている。


「あとでいいんじゃない。もう1時間以上も前でしょ。誰かが拾って図書委員に返してるよ」

「それもそうね。誰だぁこんなの読んでるの!とか思われちゃったかな」

「拾ったのが男なら、逆にときめいてるよ。一所懸命が可愛いなぁーって」

「そ? 長沖君もそう思ってくれるの? 嬉しい! そんな風に思ってくれるんだ」


 千沙は両手で両耳を塞いだ。


 ちょ、ちょっと…。あの本、瑠依だったの? この感じって、二人はどう言う関係? とても聞いていられない。瑠依って、さ、朔と…まさか、いや、やっぱり、そう言うことなの?


 き、緊急事態だ。居たたまれなくなった千沙は、震えながらそっと足を踏み出し、図書室の出口に向かった。突然の光景に、様々な想像が頭を渦巻く。確かに瑠依に彼氏がいるって話はこれまで聞いた事がない。眩しすぎて誰も手を出せないって聞いた気もする。その彼女があの本を読んでいて、それで通りがかった朔を追いかけてって…。ラノベのようなストーリィが見え見えじゃないの?


 でも、ちょっと待て千沙。朔はあたしの彼氏じゃない。そもそもあたしがどうこういう話じゃない。朔は女子に密かに人気って未来みくも言っていた。成績優秀、部活にこそ入っていないがスポーツも出来る。決して偉ぶらず聞き役に回ることが多いが、ここと言う場面での発言には誰もが一目を置く。男子にも頼られるナイスガイの朔。女王の瑠依とだって釣り合ってしまう。いや、寧ろ女王の目の高さを思い知らされる。


 だから…、小巻さんの彼氏と会ったティールームで朔に掛けてもらった言葉は、あれはその、リップサービスって言うのか、話の流れって言うのか、朔の優しさっていうのか…そう言う事だ。千沙、己惚れるんじゃない。


 校門を出て、葉っぱを落とした街路樹の下を歩く千沙の目に涙が溢れて来た。なんで涙が出るんだろう。瑠依には勝ち目がないから? 確かにあたしがモテる筈はない。あの本のフレーズが蘇る。


『彼ならきっと判ってくれる筈、なんて幻想です!』


 あたしは朔に何も言ったことがない。朔の言葉は幻想よね。これってどういう気持ちなの、あたし。


 もの悲しいのは周囲の風景だけじゃない。秋は、ちぢにものこそ悲しけれ。先程教科書で読んだ和歌の心情が千沙の全身を覆いつくし、心も身体も震わせながら千沙は歩いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ