第48話 店長
そこへ一人のスタイリストが階段を降りて来た。未来が日本語で声を上げる。
「店長!」
「お?」
噂の日本人店長のようだ。男性だが髪は長く、髭だらけ。年齢は40歳代と言ったところか。
「店長、高校の先輩で桐原さん。旅行で来られました。桐原さん、店長のムッシュ・ヴェントさん、日本人だけど」
「これはこれは、ようこそパリへ」
梢は頭を下げる。
「無理言って、未来ちゃんにガイドさんをお願いしています」
「ああ、それは未来ちゃんも勉強になるな。でも危ないところへは近づくなよ。東洋の美女はすぐに目を付けられるからな」
「はぁーい。って、私は?」
「子どもも目を付けられるかもな」
「子どもって、先輩とは、えっと、5歳しか違いませんよ!」
「ん。立派な子どもだ」
「えー」
梢はくすっと笑った。まるで親子漫才だ。
「で、これ頂いたんです。私の1ミクや折り鶴と並べて、ちょっと和風の展示もしましょうよ」
「なに?」
未来は『1さち』コインをムッシュ・ヴェント店長に差し出した。
「ん、これ…」
「はい。私の1ミクと同じで幼稚園で作ったそうですよ。北蘭高校の同級生の千沙ちゃんが」
「千沙ちゃん? 同級生?」
「そうですよ。幼稚園は全然別ですけどね、千沙は小さな島から来たから、どこの幼稚園かよく知らないけど、やる事って同じなんだぁってさっき思いましたよ」
「ふむ」
店長は『1さち』コインを目の前に掲げて仔細に眺めている。未来は楽しげに言った。
「お母さんに手伝ってもらったみたいだけど、Conception Japonaise(和風)ですよね」
「うむ。これ、ちょっと預かっていいかな」
「いいですよ、大事にして下さいね」
ムッシュ・ヴェント店長は『1さち』コインをポケットに入れた。
「それと未来ちゃん、ホントに遅くならないようにな。夜は物騒な場所が多いから」
「大丈夫です。明るいうちにホテルにお送りします。じゃ、先輩、行きましょうか」
「うん。有難う。すみません、お邪魔しました」
会釈しながら未来に連れられて出てゆく梢を見送り、ムッシュ・ヴェントは首を振った。
こんなことがあるとはな。何かのお告げか?
+++
その夜、未来も寝静まったあと、ムッシュ・ヴェントは自室の机の前で腕を組んでいた。目の前には、以前未来が持って来た『1ミクコイン』と今日預かったばかりの『1さちコイン』が並んでいる。店長は引き出しを開け、銀色の丸いものを取り出す。そして『1さちコイン』の横に並べた。それもまた『1さちコイン』だった。
ふう…2つの幸せと1つの未来…か。潮時ってこうやっていきなりやって来るものなのか。まるで預言だ。
店長は指でコインを弾きながら考え込んだ。




