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怖がり屋さんは失せもの探偵  作者: Suzugranpa
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第46話 秋は旅立ち

 二学期も半分を過ぎていた。温暖な地域とは言え、街には急に涼しい風が吹き、季節が動いていることを感じさせる。この秋、千沙にとっても嬉しいことがあった。幹太と若葉の結婚である。千沙は式に出席こそしなかったものの、関わった一人として、かつて感じた責任を果たし終えた気がしてホッとしていた。式の様子や、その後の家庭の様子を、梢がスタジオ・ジュリにやって来て細かく報告してくれている。


「それで、兄は転職することになったの」

「て、転職?」

「そう。銀行は手堅いって思ってたらしいけど、最近そうでもないと気付いたんだって」

「へぇ、何をするの?」


 樹里も、いきなり一児の父となった男の行方が気懸かりなようだ。


「運送会社です」

「え? ドライバー?」

「いえ、流石にそれは難しいので、会社の経理担当だそうです。銀行にいたから詳しいだろうって採用されたそうなんですけど、全然判らないって只今猛勉強中」


 梢はくすっと笑う。


「明佳ちゃんが背中によじ登って応援してるって」

「あは、可愛い」


 千沙も想像してみた。ほのぼのする。


「兄は、明佳ちゃんの本当のお父さんのようなドライバーさんが流した汗が報われるように、会社の下支えをするって結構張り切っています」


 樹里が小さな拍手をした。


「いいことだ。会社って形のないものの為じゃなくて、一緒に働いている仲間のために頑張るって、本当はそう言うものだと思うけどな。お客様第一とか矢鱈言うけど、その陰でスタッフが泣いてたんじゃ、何やってるか判りゃしない」


 ふんふん、なるほど。千沙は判らないながらも理解した。梢は座り直して背筋を伸ばした。


「それでいろいろ一段落したので、私もぶらっと旅行に行くことにしました」

「へぇー、どこへ?」

「パリです。街角カフェでいろんな人を観察しながら、自分の将来も考えてみようかなって」


 パリ…。未来と一緒だ。千沙は小さなえにしを感じた。


「あの。夏休み前に、梢さんがパーマに来られた時、あたしの同級生がここに来たのを覚えていらっしゃいますか?」


「夏休み前? ああ、お金探してって言ってた子?」

「はい、そうです」

「覚えてる。そんな依頼も来るんだーってびっくりしたから」

「結局お金って言っても本物じゃなくて、こんなヤツだったんですけど」


 千沙はレジの裏から『1さち』コインを持って来て、梢に見せた。


「何これ、可愛い。もしかして『1ちさ』が『1さち』になってるのかな」

「えへ、そうです。あたしが幼稚園の時に作ったので。お母さんが大事に取っといてくれたんです。あの友だち、左草未来って言うんですけど、あの子も同じようなものを作っていて、それが未来のお父さんにとって一番のお宝だったんですよ、結局」

「ふうん。きっとまた千沙ちゃん大活躍だったのね。でも明佳ちゃん見てると良く判る。子どもってこんなに可愛ければ一生のお宝よね、お父さんやお母さんの」

「はい。本当にそうみたいでした」

「千沙ちゃん、これ、たくさんあるの?」

「え? まあ、10枚くらいですけど」

「1枚買い取らせて頂けない? 旅行で何かの役に立つかも」

「えー? 使えませんよ」


 梢は微笑んだ。


「使やしないよ。この絵とか、ほら和風でしょ。こう言うの、フランスの人って好きかもって。日本では幼稚園児がこんなの作るんですよーってかましてみる。『1さち』って言葉もお守りみたいだし」

「半分はお母さんが考えたみたいですけど」

「いいのよ。国際親善のための小さな嘘は」


 千沙は梢がフランス人に小さなコインの説明をしているところを想像し、ほっこりとした。


「じゃあ、3枚お分けします! あたしも一緒に行ってる気分だから」

「ホント? 有難う」


 千沙は更に2枚の『1さち』を梢に手渡した。


「そう、それでその未来もね、今はパリにいるんですよ」

「えー?なんで?」

「留学したんです。ずっと前から考えてたみたいで、来年の3月まで」

「そうなんだ。じゃ、訪ねてみようかな。ガイドさんやってくれるかな。高校の後輩だしね」

「はい。LINEで知らせておきます。あ、住所も知ってるから、梢さんにもお送りしますね」


 千沙はSNSのデータを梢とのLINEにコピペした。


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