第44話 青年の主張
青年はにこやかに話した。
「仕事のことは話せないんですが、それと関係しています」
「公務員だって小巻さんが仰っていました」
「まあそうですね。でも見ればお解りと思いますが、こんな風に日焼けする仕事なんですよ」
朔も頷く。千沙が聞いた。
「アウトドアでのお仕事ってことですか?」
「そうですね。ずっと外って訳でもないんですが、主戦場は外です。あと、これが口外できるギリギリのところなんですが、身の危険を伴います」
「え?」
二人の高校生は唖然とする。もしかして、トップガンとか海猿とか、そう言った類なのか…。
「命を失った場合、身体も返って来ないことが大半です」
「!!」
朔が黙って頭を下げた。朔には何のことか解ったようだ。青年は続けた。
「結婚してそんな事になったら、小巻がどう感じるか、9年も付き合えば判ります。そういう悲しみを彼女に与えたくない。だから付き合うのを止めようと言ったわけです」
そ、そんな哀しい、切ない話、どう受け止めればいいのだろう。千沙は混乱した。15年の人生では考えた事も無い話だ。青年は続ける。
「だから家庭を持つべきじゃないと思うのです。それに家族がいると闘い続けられなくなる気もします。守るものが二つになると優先順位を付けなきゃいけなくなる。それが隙になって闘いに負ける要因になると思っています」
この人も悩んで、苦しんでいるんだ。千沙は小巻の気持ちとこの青年の気持ちを較べ、心がパニックになりかけていた。どうしてあげればいいんだろう。普段通りって高岸さんは言ったけど、普段の状況じゃない。
「勿論、僕だって死にたい訳じゃない。でももしそうなった時、最期はどうだったのかと知らされない小巻が不憫で仕方ないんです。だからそういう風にならないような安全な道が『別れる』ってことだと思っています。高校生のお二人にはちょっと荷が重い話かも知れませんが」
この人は飛び切り優しいんだ。千沙の目の奥にはじわっと涙が滲んで来た。ロミジュリどころじゃないよ。愛し合っている二人なのに、一緒になれない不条理。それも相手のことを思いやったが故に出した結論。本当に荷が重い。小巻さんになんて言えばいいんだろう。あの方は小巻さんのことを本当に愛していらっしゃいました。だから結婚できないんです…なんて解って貰えるのか。結婚することが幸せだって小巻さん言ってたじゃない。千沙の気持ちは銀河系のようにぐるぐる渦巻く。そしてその尻尾はブラックホールへ吸い込まれてゆく。
「解る。めっちゃ解る」
黙っていた朔がポツリと言った。
「もし、俺がその立場だったら、千沙ちゃんに同じことを言うかも知れない」
え? ええ? ど、どういう意味? 千沙は異なる次元の渦に引き込まれる。青年はそんな二人を微笑みながら眺めている。
「解って貰えたかな。仕事には男女の区別はないのだけど、こういう話になると男女で違う面が出るんだよね」
「でも…」
朔は青年を見つめた。
「生意気言います。でも、それは単なる男のエゴじゃないですか」
「エゴ?」
予想外の反撃を食らった青年はポカンとした。




