第42話 いつも通りに
仁王立ちの小巻に睨まれた千沙の頭は真っ白、涙が自然に湧き出る。ど、どうしよう…。
しかし、次の瞬間、小巻はストンと椅子に座り落ち、テーブルに顔を伏せて泣き崩れた。
「も、もう、何が何だか判んないよ、どうしたらいいのか判んないよ、ずっと好きだったのに、助けてよ…」
一瞬唖然とした千沙だったが、すぐに席を立って小巻の隣に腰かけた。手で小巻の背中を擦る。小巻の涙は止まらない。しゃくり上げる小巻の背中を千沙はひたすら撫で続けた。
その時、千沙たちのテーブルにゆっくり近づいてくる小柄な影があった。
「千沙ちゃん」
「あ、高岸さん」
小巻が涙を溜めた目で人影を見上げる。千沙が慌てて言った。
「あの、こちらは知り合いの高岸さんです。以前にご依頼を頂いたお客さま」
小巻は慌てて手の甲で涙を拭う。
「ご、ごめん、大人げなくて」
「いえ」
「掌がこんなに温かいって知らなかった」
高岸さんが小巻を覗き込んだ。
「ありゃ、きれえなお化粧が台無しばい」
「す、すみません」
「向こうで聞いとったばってん、千沙ちゃんは頼りになるばい。うちが保証する。背中で感じたやろ」
ハンカチを取り出した小巻を見て、高岸さんは皴の中に微笑みを浮かべた。
「若か人は悩みがまっすぐで良かね。トイレでお化粧ば直しといで」
「は、はい。ちょっとごめん」
小巻は立ち上がると、バックを手にトイレへ小走りで向かう。
「千沙ちゃんには重か話だばってん、いつもん通りにやれば、きっと上手ういくばい」
高岸さんはそう言うと千沙のテーブルの伝票を掴むと、小さく手を振ってレジへとゆっくり歩いて行った。
「有難うございます」
千沙は立ち上がって、去り行く小さな背中に頭を下げた。ドキドキが収まりつつある。そう、いつも通りだ。
間もなく小巻が戻って来た。
「ごめんね、気が立って。こう言うのヒステリーって言うのよね。こういうところが嫌われてるのかな」
一転殊勝になった小巻を千沙はそっと見上げる。
「お話伺った限りでは無理ないと思いました。あたしにはまだ判らないことだらけですけど、あたしが理解する必要はなくて、彼氏さんと杉原さんがお互いに理解し合えればいいので、一度彼氏さんにもお話を伺わせて頂いていいでしょうか」
「うん。頼むわ。今のお婆ちゃんの言葉に嘘はなさそうだし」
小巻はスマホを取り出し、彼氏の電話番号とメールアドレスを教えてくれた。




