第35話 停電
「な、なに…?」
「煙出てる! 大変! 119番だ!」
千沙が両手で顔を覆っている傍らで、未来が叫びスマホを取り出した。近所の人も飛び出してくる。
「停電よ!」
「て、停電?」
千沙が指の隙間から周囲を見ると、所々で灯き始めていた門灯や街灯、信号機までが消えている。未来はテキパキと消防と話をしているようだ。
「大丈夫。すぐ消防車来るって」
未来がきっぱりと言う。千沙はようやく目の前を直視できるようになったところだ。
「み、未来ってすごいね。119番なんて、あたし、かけられない…」
「だって通報するのは国民の義務じゃない」
「そ、それはそうだけど…」
「でも、もう大丈夫っぽいなあ」
確かに電柱の上の真っ黒な煙は次第に薄くなっているようだが、街灯や信号機は依然消灯したままで、車は恐る恐る交差点を渡って来る。暫くしてサイレンが聞こえ、パトカーと消防車、そして電力会社の作業車が到着した。未来と千沙は遠巻きに見つめる。
「何だかコインどころじゃなくなったね」
未来がぼそっと言った。
「うん。あたし、帰れるかな」
「ああ、バスが来なくてもお母さんに送ってもらうよ。でも停電は困るよね。あの大きな火花と関係あるのかな」
「うん、多分…。ちょっと聞いてみる」
千沙はスマホを取り出した。こう言う事を聞けるのは一人しかいない。間もなくSNSの電話が繋がった。
「そう、バシーンって凄い火花が出て、停電になって。うん、そう言う事あるんだ。短絡って何だっけ?」
千沙は手でスマホを覆って肯いている。
「あ、ショートのこと。小学校で習ったね。プラス極とマイナス極がくっつく奴。判った。有難う。突然ごめんね」
通話を終えた千沙を、未来の肘が突っつく。
「判った。長沖君でしょ、愛しの朔?」
「え? な、なんで…」
「すぐ判るよ。声も漏れてたし。やるなあ千沙、長沖君、密かに人気あるんだから、千沙、身辺に気を付けなよ」
「えー」
「モノを隠したりする根性の悪い女子がいるからね」
「う、うん」
「あ、認めたな、千沙」
「あーーー、いや、そうじゃなくてー」
「足掻くな千沙。結構お似合いよ。末永くお幸せに」
二人が騒いでいるうちに、火花が上がった電柱へ、電力会社のバケットカーのカゴがウィンウィンと伸びている。
「私、高いところ、苦手なんだ。だからあんな人見ると尊敬しちゃう」
「そ、そうね。何してるんだろう」
「電線を繋いでるんじゃない?」
暫くしてバケットカーのカゴが降りて来た。周囲には消防や警察の関係者も集まりカゴの中から取り出したごちゃごちゃしたものを眺めている。そして一人の消防士がハンドマイクを持って、周囲に集まった近所の人たちに向けて話し始めた。
「えーみなさん、大変ご迷惑をお掛けしました。現在起こっている停電の原因は、電柱の上のカラスの巣が電線に触れて、ショートしたものと思われます。停電は間もなく復電するとのことです。なお、ショートにより一時的に炎が上がりましたが、現在は鎮火しておりますのでご安心下さい。ご心配をおかけしました。明日、日中にもう少し現場検証の方を行いますのでご協力の程、宜しくお願い申し上げます」
カ、カラスの巣? 原因は朔が言う通りのショートらしいけど、そんなのであんなに火花が散って、ショートになるの? お、怖ろしい…。千沙は身をブルっと震わせた。間もなく周囲の人たちは次々と自宅に戻り始めた。街灯も点灯し、パトカーや消防車も次々に引き上げ始める。二人はもう少し歩を進めた。ちょうど、バケットカーが停車していた辺りだ。未来が公園の先を指さした。
「この公園の端っこに、粗大ごみを出す場所があるのよ。ほら何となくごちゃごちゃ見えるでしょ」
「本当だ。まだあるんだ」
「回収はあさってだっけかな。それまでに勝手に持って行っちゃう人もいるんだよね」
「ふうん」
「でもさ、もう暗いし、騒がしかったから、今日はもうやめよう」
「う、うん。そうね」
千沙が不安げに周囲を見回したその時、
バサバサバサッ! カァー
Uターンして戻ろうとした二人の頭上を、突然黒い影が駆け抜けた。
「カ、カラス?」
「みたいね。巣を取られた腹いせかな。さっさと帰ろう。また来るかもだから」
「うん」
上空を警戒しながら足を早めた未来に、千沙も慌ててついて行く。すると千沙の目の前の路上で、キラッと光るものが目に入った。




