第34話 粗大ごみ
行き掛かり上止む無く、千沙は翌日の帰り道、未来の家に同行した。未来の自宅はスタジオ・ジュリから見ると、長細い港を挟んで反対側。北蘭高校からはバスの1回乗換えで1時間足らずで行ける高台の住宅地だった。未来の家は比較的新しい洋館。梅島では見たことないお洒落な家だ。
千沙はまず未来の部屋に通された。窓からは西側の海が見える。夕方を迎えた海はオレンジに光って美しい。千沙は思わずうっとりと眺めた。
「海、珍しい?」
「え? ううん、中学まではほとんど毎日、海を見てたから懐かしいなって」
「そうだ。千沙は島の出身だった。私よりずっと海には詳しいよね」
「詳しいわけじゃないけど、目の前の海を越えるの、怖いなあって毎日思ってた」
「そうなんだ!立派に越えて来たじゃん」
「まあ、そう言えばそうだけど…」
未来も千沙と並んで窓の外を眺める。
「私も海を越えたいと思って、いろいろ考えてるの」
クラスカーストでは上位にいるキラキラ女子の未来だ。そんな希望も千沙には頷ける。
「越えるって、東京とか行くってこと?」
「ううん、もっと遠く。ヨーロッパとか」
「ヨーロッパ?!」
千沙は驚いた。自分には想像できない夢だ。
「フランスがいいなって思って探してるのよ、留学先」
「へぇ。凄いね。フランスで何かしたいことあるの?」
「これと言うのはないんだけど、それを探しに行くって言うのか、ウチのお父さんって海外出張多かったじゃない? だから、小さい頃によく外国のお話を聞かせてくれたのよ。それから余った外国のコインを貰ったりもした。日本のお金と違って小さいのとか角張ってるのとかいろいろあって楽しかったな」
千沙はふと気になった。
「無くなったコインのコレクションってそう言うもの?」
「ううん、違うと思う。今考えればだけど、両替できなかった小銭だもん」
「そっか。そんな単純な話じゃないよね」
「まあね。じゃあ千沙探偵にはまずお父さんの部屋から見てもらおうかな」
「うん」
千沙は同じ2階の1室に案内された。書斎と呼ぶに相応しい重厚な雰囲気だ。荷物は断捨離のあとらしく、大きな机と椅子、ソファがあるだけ。壁には写真が掛かっている。1枚は家族の写真。未来がまだ幼稚園くらいの感じだ。もう1枚はゴルフ場での1枚。お父さん、ゴルフが好きだったんだ。
千沙の視線に気づいて未来が話かける。
「断捨離でさ、一昨日、ゴルフバックを3つも粗大ごみに出したのよ。クロゼットの奥の方に入ってて、お母さんも呆れてた。いつの間に増えたのよって。まあ海外出張でもよくゴルフしてたらしいから半分仕事なんだろうけど」
「その中にコインのコレクションを隠してたってことはないよね」
「うん。一応ジッパーをぶわーって開けて確認したよ。ゴルフクラブばっかりで巾着も壺もなかったよ」
「そう…。粗大ごみってどこに出すの?」
「おお、千沙、探偵っぽい! ごみは公園の角の所だけど、見に行く? まだ回収されてないと思う」
「うん、一応。見ておかないと樹里さんに怒られるし」
「あはは、面白い関係よねー、千沙と樹里さんって」
二人は玄関を出て、近くの公園に向かう。周囲は薄暗くなりかけている。
「千沙のお父さんは島にいるの?」
「ううん。行方不明」
「ゆ、行方不明?!」
未来は心底驚いた。
「そんなコミックみたいな話…本当にあるんだ。どんな感じなんだろう?」
「そうね…」
千沙は少し考えてから口を開いた
「ほら、コミックで輪郭と髪だけで顔がないキャラクターって出て来るでしょ。あんな感じ」
「顔がないの?」
「うん、覚えてない。写真もないし、お母さんが言うにはだけど、修行に行くって出てったって」
「探さないの?」
「だって、顔も判らないし」
「えー。淋しくない?」
「判んない。淋しいのかも知れないけど、初めからいない感じだから」
「そうなの? 私よりずっと大きな失せものだ」
「確かに」
カラスの声がやかましい。千沙は夕暮れの空を見上げた。
「なんか、カラス、多いよね」
「そうなのよ。夕方に集まって来るの。時々トンビがやられてるし」
「へぇ、トンビが?」
バシッ!!!
千沙が感心したその瞬間、二人の数十メートル前の電柱の上で大きな火花が散った。




