第2話 廃校
翌朝。
チリチリチリチリ・・・
スマホアプリが古風な目覚ましベルの音を奏でる。
んんっ。千沙は手を振り回してスマホを掴み、枕の下に突っ込もうとして…失敗した。
ゴトッ。 チリチリチリチリ・・・
床に落下したスマホは健気に時を告げ続ける。 んあっ、うるさい…。千沙はベッドの上から床に手を伸ばしてスマホを取ろうとするが、
ドッターン!!
あいたた…。今度は千沙そのものが床に落下、お陰で一応目が覚める。
「なによ、朝から…、もう」
千沙は自分の下敷きになったスマホを取り上げ八つ当たりする。すると、部屋のドアがノックされた。
「ちさー、どうしたの? 大きな音」
ガチャ。母の絹が顔を覗かせ、床に座り込んだ千沙を見つけた。
「日曜日だから寝ててもいいけどさ、目が覚めたんだったら起きてお出で。大事な話があるから」
なに、大事な話。まさか行方不明のお父さんが現れた…とか? 千沙の気分は少し盛り上がる。
目を擦りながら千沙は洗面に向かい、顔を洗って歯を磨き、軽く髪をブラッシングしてダイニングへ向かった。
+++
いつもの千沙の席には既に朝食が置かれていて、千沙が座るとすぐ絹がコーヒーマグを持って来てくれた。
トン。
マグを置いた絹は千沙の前の席に座る。
「あのさ、昨日学校から呼び出しがあったのよ」
よ、呼び出し? あたし、なんか悪いことしたっけ? 千沙の気分は急降下し、ドキドキが募る。
「な、なに?」
「あのね、高校なんだけど、分校が廃止になるって、来年から」
「え?」
千沙は完全に覚醒した。は、廃止?
「千沙は、一応希望してたでしょ? まあ千沙しか希望してないからなんだけど、今の在校生は卒業までいられるけど、来年の募集はないんだって。だからどこか別の所を志望して下さいって。進路志望票は白紙撤回ね。千沙には先生からちゃんと話すけど、保護者の人には先にお話ししておきますってさ」
気分が下がるどころではない。文字通り、千沙の頭の中は白紙、いや真っ白になった。
「あ、あたし、ど、どうするの? どうしたらいいの?」
「ま、それをこれから考えるってことなんだけど、千沙の希望は先生がちゃんと聞きますって」
「希望なんて…ないけど」
「だよね。千沙、分校以外考えたことないもんね。あ、それで普通なら本校にって話なんだけど、本校もね、県立高校の統廃合で無くなるみたいよ」
千沙の真っ白な頭の上では、更に真っ白な天使たちが舞い踊り始める。アーメンと唱えながら…。
「無くなる?」
「うん。本校も今の在校生は卒業させるみたいだけど、来年の1年生は募集しないみたい。統合される学校は隣の市内だから、そこまで通うみたいよ。でもさ、そこまで行くんだったら他にも選択肢があるからさ、その辺の話を先生が教えてくれるみたい。多分、月曜日に」
全く『何と言う事でしょう』だ。なんであたしの時にそうなっちゃうわけ? あたしに進学するなって言っているようなものじゃない。
千沙はその後の朝食の味も、いや朝食を取ったかすら覚束ないまま一日を過ごし、スペシャルダークブルーな月曜日を迎えた。