第28話 初デートはバラの香り(計画編)
千沙はスマホを睨んでいる。ゴールデンウィーク前日、朔とのやり取りだ。翌日、二人は県内の大きなテーマパークに行く約束なのだ。
『長崎駅から快速列車に乗るけど、改札は工事中でややこしいから電停降りたところで待ってて』
電停、デンテイ。聞き慣れない言葉だが、路面電車の乗り方は昼間に聞いていた。真ん中の扉から乗って前から降りる。バスと同じだが整理券は要らない。市内に出て来て、ようやくバスには乗れるようになった千沙だったが、難関は電車だった。しかし、路面電車はバスと同じと聞いてほっとしていたのだ。ところが次のハードルはJR。駅の大きさを考えても、路面電車とは別物と考えた方が良い。千沙はメッセージを入れた。
『話した方がいいので通話にしてもいい?』
すぐに朔から着信が入る。
「ごめんね長沖君。あたし、全然判んなくて。あの、快速列車ってJRのこと?」
「そうだよ。直通があるんだ」
「えっと、改札って整理券取るところ?」
「え? いや、JRは切符とかICカードで乗るんだけど、千沙ちゃん、知らない?」
「し、知らない…」
LTE回線の向こうで天井を仰ぎ見る朔が見えるようだ。
「えっとね、今回は目的地までの切符を買って、改札口の機械に通すんだよ。すると『乗りましたよ』って印が入ってゲートが開いて、向こうの駅では、確か改札の機械がないから駅員さんに渡すんだ」
「ふうん」
「ま、見てればすぐ判るよ」
ぼ、冒険だ…。千沙のスマホを握る手にじわっと汗が滲む。
「あの、あたし、そこって行ったことないんだけど、怖い乗り物とかないよね」
「怖い乗り物って?」
「えと、高いところから落ちるのとか、お化け屋敷とか、テレビで時々やってるようなやつ」
「うーん、絶叫系は少ないと思うし、お化け屋敷なんてあるっけな? どちらかと言うと、癒し系のテーマパークだから千沙ちゃんにぴったりだよ。お花畑とか有名だし」
良かった…。何も下調べしていなかった千沙はほっとした。長沖君を信じよう。
「千沙ちゃんが大丈夫なアトラクションってどんなの? それらしいの探しておくから」
「えっと、回らないコーヒーカップとか、のんびり走るジェットコースターとか?」
「ぷっ」
スマホの向こうで朔が吹き出している。
「ご、ごめんね、なんかドンくさくて」
「いや、千沙ちゃんらしいよ。でも回らないコーヒーカップって只のベンチだよね」
「あ…」
「いい、いい。まったり出来そう」
「あの、よ、よろしくお願いします」
千沙はいろんなドキドキに包まれて通話を終えた。デートって言うより、遠足に引率してもらうみたいだ。樹里さんには友だちに誘われたとしか言ってないから丁度いいや。とにかく明日の目標は長沖君に迷惑かけない事だ。千沙は拳を握りしめた。




