第25話 ほの字
ブーッ
その時、高岸家のブザーが鳴った。高岸さんが目を細め、いそいそと出てゆく。間もなく、
「おばあちゃーん、パパ おしごと かえりましたー」
明佳の声だ。続いて小さな足音がパタパタと聞こえ、すぐに小さな顔が覗く。千沙は手を振った。
「あーっ ちさちゃん」
「お帰り、明佳ちゃん。パパはちゃんとお仕事してた?」
「うん、してた。おひるねもした。めいかをペロペロしてくれた」
「そう、良かったねえ」
「うん」
続いて明佳は幹太を凝視した。
「パパぁ!」
幹太は目を丸くする。
「え、いや、違うと思うけど、いや、ああ今はパパかもなー、お帰り明佳ちゃん」
「パパは『ただいま』でしょ?」
「あっそうか」
頭を掻いた幹太の膝に明佳が飛び乗る。
「パパはどこへいってたの? めいか、ずーっとまってたのよ」
「え?そうなの? いや、ちょっと…、えっと、どうしたらいいんだ?」
その時、明佳の母が客間に顔を覗かせた。
「これ明佳! 駄目でしょ、他所の人の膝に登ったりして!」
「あ、いやいいんですよ」
慌てて幹太が釈明する。しかし、その顔を見て明佳の母は息を呑む。
「え? あ、す、すみません。亡くなった主人とよく似た感じでいらっしゃったから…」
幹太も明佳の母の目を見つめる。二人の視線が絡まり、言葉が呑み込まれる。
そんな様子を千沙は観察していた。絡まった視線が次第に一本に繋がり、真っ直ぐな糸になるのを。
明佳はまだ幹太の膝に登ったままだ。しばしの沈黙の後、頬を赤らめて明佳の母は続けた。
「め、明佳、お、降りなさい…」
声が震え、尻すぼみだ。千沙は見えた思いを口に出した。
「明佳ちゃん降りなくていいんじゃない? 梢さんのお兄さんが『他所の人』じゃなくなればいいんだから」
明佳の母と幹太は恥ずかしそうに互いに目を逸らす。梢は千沙の肩に手を当てた。
「探偵ジュリって凄腕なのね。失せもの以上の宝物が出て来そう」
俯く千沙の傍らで、クロスケパパが退屈そうに大きな欠伸をした。




