第24話 小さな字
「そうなんか。この100万を増やして明佳ちゃんを助けちゃろうと思うとったんやけど」
梢ははっとした。明佳ちゃんは、昨日聞いた高岸さんが孫のように思っている女の子だ。幹太は不思議そうな顔をする。
「メイカちゃん?」
「あの、明佳ちゃんって…」
千沙が簡単に説明する。幹太の顔が少し緩む。
「クロネコですか。僕もネコちゃん大好きなんで」
「そうかぁ。また会うてやってくれ」
高岸さんの顔がほころぶ。
しかし梢は悲愴な表情になる。明佳ちゃんのための100万円が1500円。高岸さんの心が踏みにじられた気分だ。千沙も心が痛んだ。高岸さんの気持ちが良く判る。
幹太は本題に戻る。
「あのう、あまり冒険しない投資案件を考えましょう。国債とか地方債はどうですか。国とかが元本保証しますので、元本割れすることはありません。高岸さんはまだ資金的な余裕はおありだと思うんですが」
まだ言う気? 梢は頬が引き攣りかけている。
「良う判らんばってん、そうそう余裕はなかとよ。桐原さんを信用しとらんわけじゃなかばい。桐原さん、よう勉強されとーし。ばってん、追加はもう少し考えたか」
梢は目を逸らし涙を隠した。高岸さん、わざと明るく、兄を傷つけないように接してくれている。なんて優しいお婆ちゃんなんだ。兄はその気遣いを判っているのだろうか。
梢さんは何も言わないし、あたしには出番なさそうだな。千沙は座卓に置きっ放しのA4文書を手に取った。あたしもちゃんと見ておかないと樹里さんに怒られちゃう。そもそも梢さんの『失せもの』はあたしの当番なんだから。
『謹啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます…』
うわ、難しい文だ。社会に出るとこんな書き方しなくちゃいけないのか。千沙は高岸さんが指摘した部分に目をやる。ごちゃごちゃしていて見づらい。これ、表にする意味ないな。字がちっちゃいし、えーと…。
!?
「これ…」
小さな声で千沙が呟く。幹太がちらっと千沙の方を見たのを捉え、千沙は聞いてみた。
「上の方の一番端に(千円)って小さく書いてあるのはなんでしょうか? 単位?」
「え?」
幹太は慌てて紙をひったくる。そして文書を凝視した。
「バカヤロウ! こんなとこに書くなよ。年寄には見えんだろうが!」
梢は目を大きく開けて幹太をじっと見る。
「高岸さん! 儲かりましたよ! 1500円じゃなくて150万円です! これって千円単位なんですよ。見逃してました。フル桁でちゃんと大きく書けって話ですよね、読むのはお年寄りなんだから」
「ほう…」
高岸さんの目が点になった。
「それじゃ損しとらんってことやなあ。明佳ちゃんに何かしてあげらるる」
梢はほっと胸を撫で下ろした。『読むのはお年寄りなんだから』の一言に本来の兄を見たような気がしたからだ。
梢の瞳の光を千沙も感じた。『失せもの』は姿を現した。取り戻せる気がする。
千沙は梢と目を合わせた。




