第23話 暴落
「いんや、魂消っばい。桐原さんに電話しようと思うとったら、ここで会うんやもん」
梢は目を伏せた。
「あの、兄が高岸さんに、何かご迷惑をお掛けしているんじゃないでしょうか」
「んにゃ、お世話になっとうばい」
「でもお金のことですよね。損させたりしていませんか」
「それがよう判らんとやばってん、桐原さん、必ず得するいいよったけどなあ」
高岸さんはホール係にクリームソーダを注文し、和柄のポシェットの中を触っているうちに、クリームソーダが届いた。
「これがばり好きでねぇ。ばってん、千沙ちゃんが桐原さんの妹さんと知り合いやとは思わんじゃった」
高岸さんはロングスプーンでアイスを少し取って口に入れる。
「桐原さんが紹介してくれた会社から手紙ばもろうたけん、数字ん意味が解らんばってん、見てもらおう思うて。まさかここにおるとは思わんじゃったが」
「あの、兄を呼び戻します」
「いや、いらんばい、忙しそうやし明日でよか。電話して家まで来てもらうけん」
梢と千沙は止む無く頷いた。高岸さんは梢に向かって、
「ほんで千沙ちゃんにはお世話になったんばい」
高岸さんが梢に、明佳ちゃんの1件を説明する。梢は感心した。
「へぇ、凄いね、千沙ちゃん」
「いえ、偶然なんです。偶然が重なって」
梢の中では、兄と高岸さんのことは消化不良のままだったが、明佳ちゃんの1件については心を優しくさせた。
+++
翌日の夕方、行きがかり上、梢と千沙も高岸さん宅へやって来た。間もなく汗を拭き拭き幹太がやって来る。
「いやあ高岸さん、昨日はすみませんでした。妹から聞いて初めて気がついて」
「よかよか。忙しそうやったけん。それでこん手紙が来たんばい」
玄関の隣の客間で、高岸さんは三つ折りにしたA4サイズの紙を取り出し拡げる。梢と千沙も覗き込んだ。
「これは正式な運用報告書じゃないですね」
幹太がポツリと言い、高岸さんが答える。
「ちょっと心配やったけん、どうなっとーか電話で聞いたら書いてくれたと」
「そう言う事ですか。証券会社の担当者が個人的に作った文書ですね」
「そうなんか。それでここなんやけど」
高岸さんが数字を指さす。
『現在資産額 1,500』
「1500円になってしもうた。100万円が」
「うぉっ」
「1500円って、クリームソーダ3杯分だなぁ」
幹太は目を瞑り、黙想のように天井を仰いだ。やっぱ、あの株、ヤバかったか…。
「うーん、戦争でヨーロッパの会社の株価が暴落しましたからね」
一気に噴き出る汗を幹太は拭った。妹の梢も聞いているんだ。何とか取り繕わなければ。それでもう少し安定している商品に追加投資してもらって挽回しないと。確か、高岸さんは定期預金を何本か持っている筈。
「高岸さん。短期的にはいろんなことがありますので、ここで結論出さずにもう少し長い目で見ましょう」
梢の目が厳しくなった。




