第22話 兄の説明
「まあ僕も営業しか知らないから、知識は限定的なんだ。そこは解っといてね」
自己紹介もなくいきなり始まった講義に、千沙はちょっと引いて肯いた。
「一言で言えば、クライアントの資産運用を任せてもらうって仕事だ」
「しさんうんよう?」
「そう、まあ財産だね。現金で持っていてもお金は増えないからね、株や不動産なんかに投資してもらって増やすって話。いろんな投資先があるから、どこにどれくらい投資したら儲かるかってガイダンスしたり、オペレーションするのが僕の仕事。組合せが決まった商品もいろいろあるから、それをクライアントに合わせて選ぶとかね」
千沙にはさっぱり理解できない。
「あの、貯金を預かる、とかじゃないんですか?」
「はは。貯金って言うのは郵便局だ。銀行は預金って言う。けど、普通預金の金利なんて知れてるからね、投資に回した方がぐっと儲かるって話だよ。そこを説得するのも仕事のうちなんだ。世の中には現金好きも多いからね」
幹太は得意げな顔でコーヒーに口をつける。梢がイラッとした顔で聞いた。
「それで善良な人に損させるんじゃないの?」
「投資だから得する時も損する時もあるさ。元本を保証して欲しい人にはそう言う商品を勧める。ただそう言うのはロウ・リターンだけどな」
梢はなお納得できない。
「損させたらどうするの? 大事なお金でしょ。責任問題じゃない」
「仕方ねえだろ、金融経済は動いてるんだ。こっちも競争だから甘い感覚では成り立たない」
次第に幹太の口調は厳しくなってゆく。
「生き馬の目を抜く世界でもあるんだ。今の支店で成績上げればAクラス支店に行けるかも知れんしな」
「そんなに出世しなくてもいいじゃない。それより困ってる人のお金の相談に乗ってあげる方がいいじゃない」
「そんなチマチマしてるヒマはないよ。その先に本店が見えてるんだ」
千沙は兄妹を交互に見る。話が全然噛み合っていない。梢さんは稼ぐお兄ちゃんより、親切なお兄ちゃんでいて欲しいんだ。
「えっと、水取さんだっけ。それで大体解った? 厳しい世界だからね。梢みたいに甘い考えで来るともたないよ」
「はい…」
何か質問した方がいいのかな。何を聞けばいいんだろう。千沙が迷っていると、コーヒーを呷った幹太はいきなり席を立った。
「もう時間なんだ。じゃ、頑張ってくれ」
伝票を掴むと、幹太は振り向きもせずレジへと歩いて行った。梢も呆然としている。幹太が支払いを済ませ店を出ようとすると、入口から一人の老婆が入って来た。
「あ、桐原さん」
老婆は幹太に呼びかけるが、幹太は無視して出て行く。その様子を目撃して、梢はなお暗い気持ちになった。千沙への説明と言い、今のお婆さんへの態度と言い、何よあれ。お金持ちしか相手にしないの?
幹太に無視されたお婆さんがこちらの方へとやって来る。すると、
「あれ。千沙ちゃん」
千沙が驚いてそちらを向く。
「あ、高岸さん」
「何しよーと? 美人さんと」
梢も驚いた。
「千沙ちゃんのお知り合い?」
「はい。あたしの初仕事の依頼主さんで、高岸さんです」
梢は立ち上がり、高岸さんに深々と頭を下げた。
「先程は兄が大変失礼を致しました。呼んで頂いたのに無視して。私、妹の桐原梢です」
高岸さんは梢を見上げる。
「この美人さんが、桐原さんの妹さんと? あらぁ、じゃここに座らせてもらお。高岸です。お兄さんにはお世話になっとぉ」
高岸さんは、よっこらしょっと腰を掛け、喋り出した。




