第14話 回収
その日、帰宅した千沙は誰もいない店内でクロスケの件を樹里に報告した。
「これで一件落着です!」
「へぇ。上手くやったじゃん」
「えへへ」
「で、お代は?」
「はい?」
「1件 5,000円~ ってPOPの裏に書いてたろ?」
「え?」
「タダ働きして来たってこと?」
千沙の浮いた心は一気に萎んだ。
「は、はい…、すみません、何も言わなかった…」
「あーあ。今更取り立てにも行けないしねぇ」
そうだ。これは副業なんだった。千沙は深く反省する
「あ、あの! 次の探しもので倍取ります!」
「駄目でしょそれ。取り易いところから取るなんて品のないことはしないの」
それはその通りだ。千沙が一層しょげたところで店のドアがキィと開いた。
「いらっしゃいませ!」
樹里はすかさず反応する。
え?
入って来たのは明佳ちゃんの母親だった。千沙を認めてその場で深くお辞儀をする。
「千沙ちゃん、昨日、今日と有難うございました。おかげ様で明佳もすっかりご機嫌になって、高岸さんにも喜んで頂いて、主人がいなくなって開いた穴がちょっと塞がったみたいで本当に助かりました」
すると母の陰からその明佳が顔を出した。あれ?
「明佳ちゃん、いいの持ってるねえ」
明佳は抱っこしていたぬいぐるみを頭上に高く上げる。それは、アニメ映画の『魔女の宅急便』で、キキのお供をしているクロネコのジジだった。
「これ、おばあちゃんがくれたの。よるはパパいないから、かわりにだっこしてって」
「へぇ、良かったねえ」
高岸さんから頂くお代、こっちに行っちゃったんだ…。ま、あたし的にはそれでいいんだけど。
「で、高岸さんからこちらの美容室の話を伺いまして、明佳をカットして頂けないかなって」
樹里の顔もほころぶ。お代回収だ。
「いいですよ、どのようにされますか?」
「えっと、あの、千沙ちゃんみたいな感じに出来ますか? 何だかとっても可愛くて、明佳もあんな風にしたいって言うもので」
「もちろん出来ますよ。髪の色はそのままでいいですか? まだ小さいから」
「はい、有難うございます。明佳、こっちにお出で」
樹里は椅子の上に置く補助椅子のようなものをセットして明佳を抱き上げ、座らせた。
「お姉ちゃんみたいにしようね」
「うん!」
明佳の目がキラキラになっている。こんなに小さいけど女の子だな。千沙は預かったジジを明佳の前のドレッサーに置いた。樹里は明佳にミニサイズのカットクロスを纏わせると、ハサミを指でクルクル回して明佳を喜ばせる。
「さぁって。可愛くするぞー」
樹里の手でセニングがキラリと光った。
+++
母娘がきゃいきゃい喜んで帰って行ったあと、樹里は表の扉のプレートを『CLOSED』に代えた。
「ま、元は取れたかな。お母さんもここに通うって言ってくれたし」
「は、はい」
千沙は偶然に感謝した。金額はさておき、お客様が増えたのは確かなのだ。
「にしても、明佳ちゃんを保育園に通わせたいって言ってたから、千沙ちゃんカット流行るかもな。ジュニア用のカット席作んなきゃいけないかも」
千沙は少々恥ずかしい。
「よし! 千沙の写真、タウン誌にも載せて広めよう!」
「えーーっ?」
「いいじゃない。有名になるよ、元祖千沙ちゃんカットって」
「い、いやです、それ。恥ずかしい」
「そう? 千沙って招き猫みたいって今思ったんだ。お客さん呼んでくれる。絹姉にも感謝しないとな」
「招き猫って…」
「でも、次の依頼はワンコなんだ」
樹里は張り切ってクリアバインダを持って来る。その目が面白そうに光る。
ワンコって…うわ、なんか嫌な予感。千沙は樹里から目を逸らした。




