第一話 転生したら死産だった件
(あ?え?ここどこ?)
気づいたら水の中に居た。
温くて、しょっぱくて、なんだか不思議な感じ。
でも何故か懐かしい感じがする、かも?
うーん、何が起こっているのだろうか。
疑問に思い体を動かしてみるが思い通りに動かない。
何か、死ぬほど重いベールが俺の体に覆いかぶさってきているかの様だ。
(てか、ここどこやねん)
口をパクパクさせてみて発声を試みるが特に問題なく口は動かせた。
と言っても口は動かせても声は一ミリも出なかったのだが。
一体、何が起こっているのだろうか。
この謎な状況について考えてみることにした。
確か、私は死んだはず。
魔王の左腕を切り落としたけど発狂するアイツの攻撃で心臓を貫かれたのだったっけ?
で、そのまま分体に魂を移し替えて復活!しようとしてたんだ。
でも運が悪いことに分体のストックが無くなっていて、仕方がないから賭けに出て保魂の秘術を使用して魂のまま漂っていた。本来ならば肉体に憑依などせずそのまま朽ち果てるのがオチなのだが、万が一の可能性で憑依することもある。それを考えての賭けだった。
となると、今のこの体は新しい私の体となる訳か。
魂のまま漂流していた時は思考がおぼつかなかったが今はきちんとできる。
どうやら私は賭けに成功したらしい。
つまり、これはアレだ。
俗にいう転生なるモノらしい。
うーん、となると私はもう一度人生をやり直せるという事になるのか?
前世では聖女なんて言うクソ役職に就いていたせいで好き勝手出来なかったが今のこの体ならばあんな事やこんな事ができるのではないか?
ほほう。
なるほど。
どうやら私は好き勝手出来るようになったようだ。
いやー、産まれる前だけどもう産まれるのが楽しみになってきたな。
そんな感じでで私は数か月ほど母となる人間の腹の中で待っていた。
おおよそ意識を得てからかなりの時間が経過したころ、ついにその時が迫っていた。
そう、出産だ。
それは唐突に訪れた。
頭部に激痛が走った。
そして、世界に光が満ちた。
詳しく説明すると長々としてしまうので割愛するが、まあ色々起こった。
「ああ、あなた……」
「エルリーゼ、君の子だよ」
目の前には男女の嬉しそうな顔が。
どうやら彼らが今世での両親になるのだろうか。
母の方は燃え上がるような紅髪で、その瞳もまた真っ赤だった。
容姿は中々に整っており、遺伝子的には期待できそうだ。
そして父親の方なのだが、こっちは母の方とは変わって地味な黒髪だった。瞳は変わって翡翠色だ。
で、背丈だとか筋肉だとかを見るに、かなり良さそうだ。
この筋肉が私に遺伝すれば結構便利そうである。
そんな感じで両親を観察していたら不意に彼らの表情が絶望に変わった。
何が起こったのだろうか、と思って魔力感知やらなんやらで周囲の状況を確認してみた。
部屋は貴族が住んでいそうな部屋。
その中には父母とは別に幾人かの医者もいた。
医者の方が何やら申し訳なさそうに両親に頭を下げている。
一体、何が起こっているのだろうか。
「残念ですが……お子さんは」
「なんて──!」
うん?
何が起こっている?
全く分からないぞ?
と、その時気づいた。
自身の髪の毛が真っ白になっていることに。
人間には通常”魔力”という生命力があるのだが、これが枯渇した人間は髪の毛が真っ白になる。
要は髪の毛が真っ白になるという事はつまり魔力が枯渇した──生命力が枯渇──しているという事になる。
つまりは、この状況を鑑みるに私は死産したらしい。
私の白い髪を見て彼らは死産したという事を悟ったのだろう。
まあ、そういえば私産まれてから息してなかったな。
そりゃ死産な訳だ。
私は普段から無意識のうちに神聖魔法を体に付与しているから、自分が死産していることに気づかなかったのだ。
全く、こんなバカな話ってある?と呑気に突っ込んでみたが実はこの状況、そこそこ不味い。
体が死んでいるという状況なのだ。
と言っても、魂は生きているから完全に死んでいるという訳ではないのだが。
魔力さえあればこんな状況からでも入れる保険があるのだけれど……
残念なことに今の私は魔力がスッカラカンだ。
産まれたら魔力一文無しだったってどういう冗談だよ。
難易度ハード過ぎやしないか?
でも、元聖女であるこの私ならばここから入れる保険があるのだ。
(神聖魔法:高速回復、発動!)
瞬間、全身の細胞が歓喜し動き出した。
もちろん心筋細胞も、だ。
この魔法は魔力とは別のエネルギーである聖力を糧として発動されるものだ。
聖力とは、この世界に魔力と同じようにありとあらゆる空間に満ちる力のこと。
で、神聖魔法はその聖力を活用した魔法だ。
現在この体には魔力が一ミリもないため、なんとか空気中から聖力をかき集めて来て回復魔法を発動したのだ。
本来ならば空中に満ちる聖力など適化できる訳もないのだが、聖女はそれを可能と出来るのだ。
そして、それこそが聖女が聖女と呼ばれる所以だったりする。
まあ、そんな訳で私の心臓は再び鼓動を刻んだ。
そして呼吸を初める。
「あり得ない……」
そんな私の様子を見て医者は驚愕した。