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まちがいさがしの夏  作者: 御門 計
11/13

11.七月十日(金)⑦

 好きだと自覚したところでじゃあ今何かを変えるとかと言えばそんな事は無い。


 まだ知り合ったばかりで、今日までの事を考えれば何を変えずともより親密になれるだろう。


 十二天は基本的に人当たりは悪くは無いが人間関係に明確な一線を引くタイプだと思う。だからこそ下手を打って地雷を踏まぬ様に現状維持に努めるのが最善の筈だ。


 「俺もそう言って貰えて良かったよ」


 平静を装いながら返した。まだ心臓は跳ね続けているが、どこまで隠せているだろうか。


 「ここから学校までってどのくらいかかる?」


 特に何か突っ込まれることもなく話題が移り変わった。どうやらそれなりに装えていた様だ。


 「普通に自転車で行けば二十分かからないけど二人乗りだともう少しかかるかな。まぁ三十分はかからないよ」


 「じゃあまだまだ時間があるね」


 「そうだな。一時間以上は余裕があるかな」


 余り早く学校に行って夜連している生徒や教師に見つかるのはこれからする事を思えば避けたいところだ。


 「丁度良い時間までお喋りでもしてよっか」


 「じゃあその前にシェイク買ってくるよ」


 そう言って立ち上がり二人分のトレーを片付けてからレジへ向かう。チョコレート味のシェイクのMサイズを二つ買い席に戻ると十二天の姿が無かった。


 「ごめん、お待たせ」


 十二天は直ぐに戻って来た。トイレにでも行って来たのだろう。思えばここまで行きやすいタイミングが無かったかもしれない、今後はもう少し気を遣おうと思った。


 「いや、全然。これ十二天の分な」


 「え、これいくらだった?お金払うよ」


 シェイクを差し出すと彼女は申し訳なさそうに言った。


 「十二天の方が今日お金使ってるしこれぐらい気にしないで」


 「わかった。ありがとう」


 俺がお金を受け取る気が無いのを悟ったのか彼女は素直に引いた。


 ストローを差し、吸おうとするが少ししか吸えない。


 「マックのシェイクは美味しいけど最初硬くて吸えないんだよな」


 「確かに硬いね」


 でも美味しいよと彼女は微笑んだ。


 「しかしお喋りすると言っても改まるとなんか変な感じだな」


 ここまで当然言葉や話題は選んでいるが特に不自由なく自然に十二天と会話出来ている自覚がある。だからこそ、改まって話すとなると何を話題にしていいのかわからない。


 「えーと、じゃあお互い相手に質問して答えるってのはどう?」


 「言いたくないことはパスしても良いのか?」


 「それは勿論良いよ。でも私は言いたくない事でも一つだけなんでも答えてあげる。シェイクのお礼ってことで」


 なんでもと言うのはどこまで大丈夫なのだろう。思春期の男子的に知りたい事でも良いのだろうか等と言う煩悩塗れの思考を頭の隅に追いやる。


 「了解。じゃあ最初はそっちから聞いてくれ」


 「天神岡くんはいつから小説読むようになったの?」


 「小学校高学年の頃かな。当時の担任の先生の影響で」


 初手に相応しい無難な質問なので、此方も流れを遮らずに続ける。


 「十二天も小説とか結構読むのか?」


 「そうだね。昔から家にある本を読んで過ごす事が多かったかな」


 十二天の頭の回転の速さやピッキング技術等も本の影響が大きいのだろうか。


 「天神岡くんは本以外に趣味とかってあるの?」


 「普通に友達とゲームしたりとかかな。十二天は何かあるか?」


 「私は今はUFO探しかな。結構友達多い方?」


 「まぁ普通じゃないかな。本当に仲が良い人は限られるけど、別に男女共に普通に話す奴は居るな」


 さて、此方の番になったが何を聞こうか。友達とマックに行ったことすら無いと言った十二天に交友関係の話は振り難い。


 今うちのクラスでは浮いているし、以前の学校でも同じ様な状況だった可能性はあると思う。そしてそれを聞くのになんでもの権利を使ってしまう可能性があるのが頂けない。


 「なんでUFOを探してるんだ?」


 初日に答えて貰えず、気になり続けていた質問をここでぶつけた。


 「それはどうしても知りたいってことで良いのかな」


 十二天の確認に黙って頷く。勿論それでも尚話したくないと言うのなら引き下がるつもりはあるが、UFO探しを共にする上で知っておきたい事ではあった。


 彼女は眼を閉じて腕を組んで俯いている。そこまで悩むなら良いと言おうとした時、彼女は眼を開いて言った。


 「わかった。なんでも答えるって言ったもんね」


 「でも最初に言っておくけど愉快な話にはならないよ」


 「私はUFOを見つけてお父さんとお母さんを返してってお願いしたいの」


 「それってどういう……」


 十二天の両親が近くに居ないのは分かっていたが、どうしてUFOに繋がるのだろうか。


 「私の両親は少し厳しいところはあったけれどそれぐらいで、そんないきなりいなくなったりする様な人達じゃなかったと思う」


 「でもある日私がいつも通り学校から帰ったら家には誰も居なくて、いつまで待っても二人共帰って来なかった」


 「警察にも行った。親戚にも聞いた。それでも誰も真剣に聞いてくれない。今まで普通に暮らしていた大人が二人いきなり消えたのに誰も頼りにならなかった」


 「事故とか誘拐とか殺人とか、そう言う事件性があれば警察が教えてくれる筈なのに何もない」


 「親戚の人に私の両親が行きそうな所を教えて欲しいと言ってもはぐらかされる」


 「事件性が無い行方不明なのだとしたら、もうUFOに連れ去られたくらいにしか思い当たる節が無いの」


 「いや本当は過去や未来、あるいはパラレルワールドにでも飛ばされてしまったのかも知れない」


 「でもそれを確かめる術は無いの。だから私は最初に思いついたUFOを探そうと思った」


 「そんな事を言ったら頭がおかしいと思われたのか、親戚に病院に連れて行かれたりもした」


 「聞いて面白い事なんて何も無いし、また病人扱いされるのも嫌だったから言うつもりは無かったの」


 十二天の両親がUFOに攫われたなんて事は現実的に考えれば有り得ないだろう。恐らく何か別の理由があるのだと思う。


 ただここで十二天を否定しても何にもならない。少なくとも彼女は必死に両親を探しているのだろう。今まで散々思考を巡らせ、大人に頼ってそれでもどうにもならなかった末に行きついた結論なのだ。それを俺が安易に否定するべきじゃない。


 「UFOを探す理由は分かった。話してくれてありがとう。両親見つけような、協力するよ」


 今まで十二天への興味と冒険心で付き合っていたUFO探しに俺なりの目的が追加された。


 真剣な表情が安堵からか崩れ、微笑みながら目尻を潤ませている彼女が屈託なく笑える日が来ると良いなと心から思った。




続く

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