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まちがいさがしの夏  作者: 御門 計
10/13

10.七月十日(金)⑥

 駐輪場に自転車を止め、店内に入るとマックの匂いとしか言えないあの匂いがそこかしこに充満している。


 金曜の夜に敢えて店内で食べていく人も少ないのか、客入りは疎らだった。座れない心配は全くする必要が無いので迷わずにレジへと向かう。


 「天神岡くんは普段は何を食べるの」


 「期間限定のバーガーのセットか、安い単品バーガーとシェイクとかかな」


 前者が親が買う時、後者は友人と来た時だ。


 「そうなんだ。でも最初は手堅いの食べた方が良いのかなぁ」


 初めて入ったラーメン屋では絶対に一番普通のラーメンしか食べないうちの父親のみたいな事を言い出した。十二天でもこんな風に考えるのかと思うと何だか可笑しく、くすっと笑い出しそうなのをそこそこに努力して堪えた。


 「決めた。天神岡くんと同じのにする」


 「別に十二天が食べたいのを頼めばいいだろ」


 「色々あって決め手が無いしさ。変に気を遣わないで良いから好きなの頼んでよ」


 自分の分は安く済ませるつもりだったが、初めてのマクドナルドで最安の単品バーガー二つとシェイクのSサイズ等と言った貧乏臭いものを食べさせるのもどうかと思い、悩んだ末にダブルチーズバーガーのセットを注文した。


 「さっきかなりお金使ってただろ。ここは俺が出すよ」


 見栄半分、ラッカー代を全額出させるのは流石に悪いと言うのが半分だ。


 「いや悪いよ。そもそも私が言い出したことだしさ。むしろ私が出すよ」


 私が言い出したと言うのはスプレー缶の事だろうか。それともマクドナルドの事なのだろうか。どちらにせよ流石にここで奢られては立つ瀬がない。


 結局二人とも譲らず割り勘と言うことで決着し席に着いた。


 「ダブルって言う割にそんなに大きくないんだね」


 「まぁ定番の中でも安い方だしな」


 晩御飯を食べなくても大丈夫な十二天でも食べきれる様にとこれでも控えめにしたつもりだ。


 「いただきまーす」


 バーガーに齧り付く十二天を見つつポテトを摘まむ。開けた口から覗く健康的な赤と白。女子とハンバーガーを食べにくるのも悪くない。


 「なんて言うか、普通だね」


 「まぁマックだしな」


 そう言って俺も齧り付く。大口を開けている所を見られないよう包み紙を広げ目にして顔を隠す。


 「でもポテトは美味しい」


 そうだなと返しつつ、貰っておいたケチャップの蓋を剥がす。


 「そう言えばケチャップ貰ってたね」


 「無料だし、ずっと塩味だと飽きるからな」


 「結構しょっぱいと思うんだけど、ケチャップつけたら更にしょっぱくならない?」


 「まぁ塩分は余計に取ることになるけど、食べる分にはむしろトマトが加わっていいバランスになるよ」


 「ちょっと頂戴」


 言うなり返事を待たずにカップにポテトを差してきた。こうやって同じ容器でディップすると言うのも悪くない。何が接触するわけでも無いけれど気分的に。


 「確かにケチャップつけても美味しい」


 「だろ」


 「もっと貰うね」


 ケチャップのカップは一人でポテトを食べるには余るが、二人で食べるには絶妙に足りなかった。言えばもう一つ貰えるだろうが席を立つのも億劫なので、時折ケチャップを付けずに素のポテトを食べてなんとか十二天の最後の一本まで持たせることが出来た。


 「ご馳走様」


 コーラを飲み干した十二天が手を合わせ言った。ジャンクフードに似つかわしくない、礼儀正しさだった。


 「初マックはどうよ」


 「そうだね、味は値段相応かなと思ったよ。でもしょっぱい。の中がしおしおする」


 「ポテトは頼めば塩抜きとかもできるんだけどな」


 母親はドライブスルーで買ってくる時は自分の分は塩抜きにして家でアジシオを振っていたりする。


 「でもそれだと味気ないんだと思う。塩味は半分くらいが丁度いいかな」


 「調べてみた感じそれも出来るっぽい」


 「じゃあまた今度来ようよ。その時は半分にする」


 「別にマック以外にもお店はあるけどな」


 そこまで味が気に入ったと言うわけではなさそうだから次どこかに行くとしても別のお店が良いかななんて思っていたのだが。


 「学校終わってから誰かと外食するなんて初めてだけど、マクドナルドが定番ってイメージがあるんだよね」


 「まぁそれは間違ってないと思うけど」


 余程親が厳しかったのか、それとも周りから浮いていて一緒に行く友達が居なかったのか。どちらなのかは分からなかった。


 「こうして天神岡くんと来て、良かったなって思うよ」


 心臓が一瞬にして跳ねだしたのが分かる。まるで息継ぎ無しで全力疾走した後かの様な激しく打ち付ける鼓動が耳の先から足の指まで血を巡らせている。


 一目見た時から十二天のことを良いなと思っていた。でもそれは容姿に惹かれただけであって、彼女自身を特別に想っている訳では無く心身共に健全な男子中学生らしい欲望に支配されているだけではないか、頭のどこかでそんな風に思っていた。


 嬉しそうに笑う十二天を見て、それが間違いだったのだと悟る。


 十二天の事が好きだ。



続く


 

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