大空キャンバスに想いを込めて。
現代技術の進歩は、目まぐるしいものがある。VR(バーチャルリアリティー)も、その内の一つだ。仮想空間に、まるで物があるように見える。昔の人がVRゴーグルを被ったとすれば、きっと祟りで悪霊が取りついたと大騒ぎするだろう。
『ほらほら、そっちに敵行ったよ!』
「はいよ」
VRゲームにハマっている男子高校生の陽介も、技術の進歩の恩恵を受けている一人だ。音声通話で繋がっているのは、同級生の実有紀。物心つく前から家族ぐるみで付き合いがあり、親友……というよりかは悪友と言った方が近くなる。
実有紀は物怖じしない性格で、他の女子がトカゲやら芋虫やらでギャーギャーわめく中、単身木の棒をもって突いていたことがある。
黒板消しを扉に挟み、見事教師が引っかかっても平然としている。そのくせ正義感は人一倍強く、イジメなどは身を川に放り投げてでも阻止してしまう。義賊という言葉は絶えて久しいが、実有紀はまさに現代の義賊だ。
『ナイスー! 次、南西方向から敵戦闘機2機来るよ! 機首反転!』
「あいわかった!」
実有紀の指令だけでおおよそ察しがつくとは思うが、陽介たちは空中戦の真っ最中である。再現度の高い戦闘機のコックピットが、陽介の目前に広がっているのだ。どのボタンも英語で書かれており、何に使うかがよく分からないボタンも多数存在している。
「実有紀、どこにいるんだ?」
『挟み撃ちしようとしてる! 陽介はそのまま、突っ込んじゃって!』
言われるがまま、搭載されている機関砲を、これでもかと対面しているグレーの敵戦闘機にお見舞いした。実有紀機に気を取られていたか、反撃も無く地面へと落下していく。
『YOU WIN!』
最後の一機が地面に墜落した瞬間、勝利画面が映し出された。
『やったー!』
マイクの向こうにいる実有紀も、興奮が収まらないようだ。熱気が、声から伝わってくる。
『初めて、マルチプレイで勝てたね! ありがとー』
記念すべき、二人でつかみ取った初勝利である。
『陽介、それじゃ……』
「実有紀、待って! まだ退出しないで、一旦ゲーム画面から今いるエリアに戻って」
ゲームから抜けようとした実有紀を、引き留めた。
『何、陽介? ここ、もう何もないよ?』
「いいから、いいから。操縦席から、じっくり飛行機雲を見てて」
そう実有紀に伝えると、陽介は空中を自由自在に旋回し始めた。
リアルを追及しているとはいえ、ここはゲームの世界だ。現実で飛行機雲に色が付くことは無いが、この世界でならその制限はない。
陽介の、実有紀へのメッセージが、一文字一文字飛行機雲となって現れていく。
『I LOVE YOU』
大空に描かれたのは、陽介の本心だった。
『……』
実有紀も、驚きの余り沈黙でしか返せないようだ。
「俺、実有紀のことが好きになったんだ。ここまで一緒にやってきて、これからもそうしたい、って」
静寂がしばらく続き、そして、
『……陽介、私もだよ……』
嬉し涙で崩れそうな、か細い声だった。
陽介は戦闘機を着陸させ、一目散に実有紀まで駆け寄った。実有紀も、陽介に向かって走り出した。
デジタルデータで作り出された青空は、本物の青々とした空のようだった。
『面白い』などと感じた方、ブックマーク、評価、いいねをよろしくお願いします!(モチベーションが大幅に上がります)
また、よろしければ感想も書いてくださると嬉しいです!