正しい国の作り方 オアソビ。
根の国までの道中は危険がいっぱいだった。
イザハヤと一緒に馬車の中。
カーテン開けて、そおっと外を見るも、周りをビッチリ騎馬で固められ、良い景色とは言いがたい。
しかもみんな、あらぬほうを向いている。なんか、目を合わせるとすごい勢いで目をそらされるんだよ。傷つくなあ。
少しくらい話をしたい。騎馬なんて間近で見るのも初めてだし、興味しんしんなんだよ!
触らせて欲しい!むしろ馬に乗りたい!乗せてくれ!
そう言ったら、イザハヤにやんわりと戒められた。
それでも諦めきれずに、休憩のたび、アレクシス様やリシャール様に言ったら、どこから聞いてきたのか、真っ黒ひつじ・・・いえ、執事のハビシャムさんがやってきた。
「・・・馬に乗りたいと仰っていられると伺ったのですが。姫?」
ハビシャムさんの言葉にいちもにもなく飛びついて、大きく頷いた。
「馬車より、騎馬の方が高いところから景色を見られて、いいなって思ったの。乗ってみたいな、だめ?」
ハビシャムさんは暫く考えて頷いた。
「姫。我が王に頼んでまいりますゆえ、しばし、お待ちを。それから、けっして他の者の馬になぞ乗馬なさってはいけませんぞ」
子供じゃないよ!っていったら、にいって笑うんだよ。怖いよ・・・。
ハビシャムさんがいなくなって、暫くしたら、オウランが真っ白な見事な馬を引いてきてくれた。
きれい!目がなんとも言えず優しいのだ。うっとりと見つめあってしまう。
「雪白という。俺の騎馬だが、乗ってみるか?」
嬉しいって思ったんだよ。そんときは。
乗馬のあとで、汗を拭う。川・・・近いから、大丈夫だよね?
イザハヤも忙しそうだし。ぱっと行って、ぱっと帰ろうっと!
岩陰で、こそこそと身を清める。ああ、火の国の温泉施設が懐かしいな!
川の水はきれいで気持ちがいいけどやっぱり、身を隠す物が岩だけってどんなサバイバルだよ。
と、ざわざわと声がした。
え、ちょ・・・ちょっと!
そ~ッとのぞくと、とりどりの髪の色をした男の人たち・・・騎士達・・・がそれぞれ友人とにこやかに話しながらこっちに来る。
ええっ!
「それにしても、おまえ、代われよ。巫女姫様の警護!」
「いやだね!カーテンの隙間からそーッと外を覗かれてな、眼が合ったりするんだぞ!その時の巫女様の顔の可愛らしい事と行ったら!王様には、くれぐれも顔を合わせるようなことはないようにと、きつく言い含められているけれど、これは、俺が見ているわけじゃないからな!」
「いいなあ、やっぱり、月色の瞳なのか?」
「馬鹿!まじまじと見れるわけないだろうが!一瞬だぞ。一瞬!」
・・・そうか、わたしって、一瞬しか姿を現さないスーパーレアなイキモノだったのか・・・。なんて現実逃避していたら、近い!近すぎるよ!
「ん?誰か、いるのか?」
「俺達が一番だと思っていたのにな。・・・あれ?これ・・・布?」
うわ。ちょっとまて!そこ!それ以上近づくなああああ!
しかも手にしてるその布、それ、私の、私の・・・!
「いやあっ・・・!!」
薄物でも無いよりはマシ!ぐるんと巻いてしゃがみこんだ。
と、ふわりと大きな布に包まれた。頭からすっぽりと。
「近衛隊の衛士ともあろう者が、人の気配に鈍感で如何する」
「う、あ・・・将軍閣下・・・!」
「警護すべき人物がどこに行ったかぐらい、伝令が無くとも察せねばなるまい。ましてや、年若い姫なれば、我らに口にできぬ事もあろう。そう、このように・・・水浴びもしたくなる陽気ではな」
冷気が・・・漂っているよ・・・。
近くに来ていた衛士さんたちが口々に「失礼しました!」と言って走って行った。
・・・逃げた・・・逃げやがった・・・。女の子一人置いて逃げたなー!
・・・まだ、冷気が漂っているんだよー。置いていかないでよー。
えぐえぐと泣きまねしていると、頭に声が下りてくる。
「・・・さて、姫。以前私は言いましたね。『危険な真似をなさった時は、丁寧に縛り上げ我が王の寝室に転がすぞ』と・・・。どうやら、今がその時らしい・・・」
「ま・・・!」
「念入りに、縛って差し上げる」
いいいいいやああああああっっ!!!
そりゃあ、もう、念入りに、丁寧に縛り上げられ、セイラン様の野営テントに放り込まれたのは言うまでもない。
「・・・これは、これは・・・」
「んんん、ふうううううっっ!!!」
「また念入りだね。こんなところまで縛られて・・・」
セイラン様にやれやれって顔で見られたけど、ほどいてくれる気配がない。
「ふーんんんんーんーんんー?」
なーんでー?どーしてー?ッて顔をしたら、にっこりと麗しく微笑まれて・・・。
「罰ですから」
ガチョーン。って、うわ古っと思う言葉が浮かんだよ。
「ふーんーんんー(だってさ!みんな忙しそうだったんだよ?)」
「それでも、イザハヤは付けて行かねばなりませんよ?」
「んーふーふーううーんー(みどりちゃんも、だいちゃんもいるのにー)」
「いざと言う時出てきてくれなかったそうじゃないですか」
などと、漫才を繰り広げていたら、どこからともなく現れたハビシャムさんが眉をぴくぴくさせて立っていた。
「おや」
「我が君・・・。ここまでお膳立てをしたのですから、さっさと喰ってください」
「ふふふ。可愛らしいじゃないか。もう少し、意思の疎通を楽しみたいと思っているんだ」
「我が君・・・」
あ。
ハビシャムさんの後ろに大きなゴシック体で「ガチョーン」って見えた気がした・・・。
「今度はもっと淫蕩に、淫靡な気持ちになるように縛って差し上げます」
ハビシャムさん、そういう熱意は別な方向に向けようよ・・・。
そのあと、姿が見えない私を探して、リシャール様がテントにやってきて、縛られ、転がされてる私を発見し、ハビシャムさんと戦いの火蓋を切って落としていた。
根の国までは、まだ遠く、まだ旅を楽しいと思っていた頃のオハナシ。