表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/112

9 魔王竜と追憶


「ん、どうしたんだ、シオン?」

「いや、この竜、本当はもっと……」


 つぶやいた俺に、魔王竜が視線を向け。


「ゆ、勇者!? 魔王様だけでなく、勇者まで俺を討伐に……っ!?」


 魔王竜はさらに青ざめていた。

 巨体をガタガタと震わせている。


「許してください許してください命ばかりはお助けを……」

「いや、別に俺は討伐するつもりはないから」


 俺は慌ててフォローした。


 さすがにかわいそうになってくる。


 まあ、暴れたことは反省してほしいが、幸いにも魔族に被害はないらしいし。

 それよりも――、


「なあ、ヴィラ。こいつ……本当は強いんじゃないか?」

「えっ」


 驚いたような顔をするヴィラ。

 それからスッと目を閉じ、何かを感知する。


「――いや、魔力は並だし、動きも大したことはなさそうだ。魔王竜としては平均程度の戦闘能力しかないはず」

「うーん……現状はそうかもしれないけど」


 俺は魔王竜をもう一度見つめた。


「なんかこいつ……『化け』そうな気がする。いや、俺のカンだけどさ」

「……ふむ。人間は生命力や魔力などは我ら魔族に及ばんが、唯一――『成長性』においては、我々をはるかに凌駕する。人間であるお前には、もしかしたらこいつの『成長性』が見えているのかもしれないな」


 と、ヴィラ。


「そうだな、成長の予感はするよ……人間にも、似たような奴がいた」


 それは、かつての仲間だった。


 とある王国の姫で、騎士。

 素直で、まっすぐで、ひたむきで――俺にとって可愛い妹のような存在だった。


「そのような者がいたのか。今は立派に成長したのかな」

「――いや」


 俺は首を左右に振った。

 胸の奥に、暗い気分が澱む。


「もういないんだ。そいつは……戦争で死んだ」


 魔王軍に、殺された――。


「……そうか。悪いことを聞いた」

「いや、いいんだ……」


 あのときは、魔族を憎んだ。

 それを率いる魔王を、憎んだ。


 彼女を奪った者すべてを――憎んだ。


 けれど、こうして魔王のヴィラと一緒にいて、その憎しみを誰に向ければいいのか分からなくなっていた。


「話が逸れたな。この魔王竜がもっと成長しそうな気がする、って話だ」


 俺は彼女のことをいったん頭の中から追い出し、話題を戻した。


「成長か……」


 魔王竜がつぶやく。


「いや、やっぱり信じられない。俺にそんな力があるなんて――」


 言いかけて、魔王竜は口を閉じた。


「ん、どうした?」

「どうも竜の姿のままだと話しにくいな。【人化】するよ」


 ぽんっ。


 煙を上げて、魔王竜は人に変じた。


 外見は十歳くらいだろうか。

 黒髪に金色の瞳をした美しい少年だ。


 体つきは華奢で、今にも折れそうなくらい繊細な印象を受ける。

 とても魔王竜が変じた姿とは思えないほどだ。


「それがお前の人間体か……?」


 俺は驚いて彼を見つめた。

 竜のときのイメージと全然違うな……。


「全然強そうじゃないから、普段は使わないんだ。けど、あんたにならバレてもいいかな、って」


 苦笑する魔王竜。


「……そうだ、魔王竜って種族名だよな? お前、個体名はないのか?」


 そちらの方が呼びやすい。


「個体名? ああ、俺の名前はグ・ルオ・バッシュレイガだ」

「そちらの方が呼びやすいな」


 と、ヴィラ。


「では、お前のことはグ・ルオ・バッシュレイガと呼ぼう」

「いや、フルネームはさすがに呼びづらいだろ」


 ツッコむ俺。


「そうだな……名前の一部を略してバッシュでどうだ?」

「愛称か。いいな! それで頼む!」


 魔王竜ことバッシュは嬉しそうな顔をした。




「お前の得意戦法やスキルの内訳なんかを教えてくれ」


 俺はバッシュにたずねた。


 なんだか流れで『どうやったら彼が強くなるか』について相談する雰囲気に変わっていた。


「得意戦法か……やっぱりドラゴンブレスかな」

「お、いかにもドラゴンって感じじゃないか」

「へへ、かっこいいだろ」


 ドヤ顔するバッシュ。


「ちょっと見せてくれよ。威力を確認したい」

「おっけー! じゃあ、いったん竜形態に戻るぞ」


 言ってバッシュは跳び上がった。

 空中で巨大な魔王竜の姿に戻る。

 それから、


「おおおおおおっ、ドラゴンブレスッ!」


 上空に向かって閃光を吐き出す。


「おおっ!」


 思わず叫んだ俺は、


「………………おお?」


 すぐに首をかしげた。


 バッシュが吐き出した閃光のブレス――。

 それは数メートルくらい直進したところで、ぷしゅうぅぅっ、と音を立てて消滅したのだ。


「え、えっと……」

「これが俺のドラゴンブレスだ! どや!」


 バッシュはますますドヤ顔である。


「……真面目にやってくれないか、ん?」


 ヴィラがジト目でにらんだ。


「ひ、ひいっ、もう一回!」


 バッシュがふたたび閃光のブレスを放ったが、やはりさっきと同じく数メートルで『ぷしゅうっ』である。


「もしかして……ひょっとして……それが本気のブレス……か?」


 いやいや、まさか魔王竜ともあろうものが、こんなショボいブレスしか吐けないなんてことは……。


「ううう……どうせ俺なんて俺なんて俺なんて……」

「ああっ、バッシュがいじけている!?」

「わ、悪かった! 私がきつく言いすぎた! だから落ち込むな! な? な?」


 俺とヴィラは慌てて彼を慰めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


▼コミカライズ連載中です!(漫画:えびど~先生) お気に入りやコメントいただけると嬉しいです!▼


ziijnnz431v4raji2tca3fijcq9_o6n_nc_xc_jzab.jpg

▼コミック1巻、5/19発売です!▼



ziijnnz431v4raji2tca3fijcq9_o6n_nc_xc_jzab.jpg

▼書籍版、発売中です!(書影クリックで公式ページに飛べます)▼



ziijnnz431v4raji2tca3fijcq9_o6n_nc_xc_jzab.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] ガンバレーーー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ