7 そのころ、勇者パーティは2
翌日、ティアナが城を訪れると、
「非業の死を遂げた勇者シオン……本当においたわしい……」
王女メリーアンは涙に暮れていた。
彼女がシオンに惚れていたことを、ティアナは知っていた。
「どうかお気を強く……あたしたちが支えます」
「わたくし、古文書を調べたのです」
姫がぽつりとつぶやいた。
「禁忌と呼ばれるものも含めて――王族の特権を駆使して」
「姫様?」
「古代の勇者伝説にこうありました。勇者の命を犠牲にすることで魔王に大ダメージを与える術式がある、と」
「っ……!」
ティアナは思わず息をのんだ。
「あなたはご存じでしたか、この術式の存在を」
メリーアンがティアナを見つめる。
ティアナは答えられなかった。
まさか――あたしたちがシオンを自爆させて殺したことに気づいているのか?
それとも――。
いや、下手なことを言えばボロが出るかもしれない。
ここは探りを入れていこう。
「勇者を犠牲にして発動するなんて、おぞましい術式ですね」
ティアナはイエスともノーともいえず、悲しげな表情を作って告げる。
「姫様、なぜそのような調べものを?」
そして、話題を逸らしてみた。
「……質問をしているのはこちらですよ、聖騎士ティアナ」
メリーアンの表情がこわばった。
まずい。
背中からぬるい汗が伝う。
姫は、ある程度感づいているのかもしれない。
いや、自分たちを疑っているのかもしれない。
もしもティアナたちがシオンを犠牲にして魔王を倒したことが明るみに出たら――どうなるだろうか?
姫の追求から逃げるようにして、ティアナはその場を去った。
すぐに他の三人と連絡を取り、集まる。
「姫に疑われてるですって?」
「ええ。あたしたちが勇者を犠牲にして魔王を倒したんじゃないか、って探りを入れられたの」
カトレアの問いにティアナが答えた。
「いや、探りなんてものじゃないわ。あれはもう追及といっていい。あたしたちがやったことを確信しているかもしれない」
「バレたら……大罪人だよね」
「でも、私たちが世界を救ったのは事実……魔王を倒したから、称賛は続くかも……」
焦るイングリットと、淡々と語るユーフェミア。
「それが――魔王は死んでいないかもしれません」
カトレアが言った。
「は?」
思わず目をむくティアナ。
「魔王が……生きているっていうの? そんな馬鹿な!」
シオンを自爆させ、魔王を完全に倒したはずだ。
あの状況で助かるなどあり得ない。
そもそも、あの場からは勇者や魔王の反応は完全に消えたのだ。
「仮に魔王が生きているとしたら――先ほどイングリットさんがおっしゃったように、わたくしたちは大罪人ですわ」
「勇者をだまし討ちしちゃったからねー、ボクたち」
「卑劣な勇者殺し……世間の態度は手のひら返し……」
イングリットとユーフェミアがそろってうなずく。
ティアナは不穏な予感を感じ取っていた。
輝かしい未来が待っていると信じていたのに、それが音を立てて崩れようとしている――そんな、不吉な予感だった。
数日後――突然、ティアナたち四人は姫に呼び出された。
場所は王城の一室だ。
「あなたたちがしたことを知りました」
部屋に入るなり、姫がティアナたちをにらみつけた。
切れ長の目には怒りの炎が宿っていた――。