9 暴風王の提案
「お前は人間だろう? 魔族との結婚について、少し軽く考えすぎではないか?」
「……何?」
「お前とヴィラルヅォードでは種族が違う。寿命が違う。勇者と魔王という真逆の立場もある。結ばれるはずがなかろう」
「それは――」
確かに、暴風王の言うことには一理も二理もある。
種族の違いというのは、あまりにも大きな壁だ。
特に寿命。
俺とヴィラでは一緒に歩める時間はわずかである。
俺にとっては人生全てでも、ヴィラにとっては長い人生の一瞬のこと。
俺との時間が終わった後、ヴィラはその後も続く長い魔族の生の中で何を思うのか。
正直、俺はそこから目をそらしていた。
考えないようにしていた。
正面から向き合うと、あまりにも恐ろしくて――。
逃げて、いたんだ。
現実から……。
「だが、一つだけそれを解決できる方法がある」
暴風王が言った。
「えっ……」
「人間から魔族になることだ。お前がヴィラルヅォードと同じ種族になれば、問題は解決する」
と、暴風王。
「そうなれば、ワシも全面的に補佐しよう」
「……補佐、か」
本当だろうか。
こいつは明らかに野心を隠している。
「俺が魔族になる……か」
そんなこと、考えたこともなかった。
けど、考えてみれば、ヴィラと一緒に過ごすためにはそれが一番合理的かもしれない。
「駄目だ……シオン……」
ヴィラの声が聞こえる。
「そいつの言いなりになるな。仮に魔族になる道を選ぶなら、お前が自分で決断するんだ――」
だけど、その声も俺の耳には入らなかった。
それくらい、暴風王の提案に気持ちが揺れていた。
俺が、魔族になる。
そうすれば、ヴィラと一緒に生きていけるんだ。
もちろん、それは人としての存在を捨てるということでもある。
失うものは、決して少なくない。
俺は――。







