5 暴風王との会談1
「もう、シオンが思わずぶりなこと言うから、恥かいちゃったじゃない」
「いや、思わせぶりなことは言ってないだろ」
「まあ、あたしが勝手に誤解しただけだけど。ぷう」
ヴィラは拗ねたように口をとがらせている。
とりあえず話の腰が折れたおかげで、これ以上の追及はなさそうだ。
俺は内心でホッとしていた。
別に恋人だったとか、そういう関係ではないんだけど、それでもティアナのことを話すと、ヴィラはいい気持ちがしないかもしれない。
わざわざ言うようなことでもないし、ティアナのことは俺から言うのはよそう。
ライゼルの案内で俺たちは最上階にたどり着いた。
「こちらです、魔王様」
と扉を開けると、巨大な広間になっていた。
その最奥に玉座があり、大柄な男が座している。
長く伸ばした金色の髪と精悍な顔立ち。
きらびやかな衣装をまとい、頭上にはまるで『自分こそが王だ』と告げるように冠が載せられている。
あいつが――暴風王か。
ヴィラの叔父にして魔界最強とも謳われる男。
「では、俺はこれで失礼します。魔王様――もし、その男に飽きたらいつでもご連絡を。俺ならあなたを幸せにできますよ」
こいつ……っ。
思わずヴィラの前に出ようとしたところで、
「あいにく私はもう十分に幸せだ。シオンと一緒に生きていけることを、心から喜んでいるよ」
「政略結婚でしょう? 表向きそういう態度を取っているだけで、あなたの本心は――」
「失せろ」
ヴィラがライゼルをにらんだ。
「それとも力ずくで私を奪うか? お前ごときがこの私を意のままにできるとでも思っているのか?」
「っ……!」
ライゼルは表情をひきつらせ、後ずさった。
ヴィラの全身から放たれる威圧感が一気に増したのだ。
しょせんは――役者が違うという感じだった。
確かにライゼルではヴィラに不釣り合いだ。
なら、俺は彼女に釣り合っているのかというと、よく分からないけれど……。
「……くそ」
ライゼルは小さく吐き捨て、去っていった。
「ようこそお越しくださいました、魔王様」
暴風王は玉座に座ったまま告げた。
「魔王様を前にして無礼であろう! ここまで降りてこぬか!」
アーニャが叫ぶ。
普段とはまったく違う、魔王の側近としての口調だ。
「黙れ、下郎」
「なんだと、貴様――」
気にした素振りさえ見せない暴風王に、アーニャが怒りの表情を浮かべた。
「よい、アーニャ。彼はああいう男だ」
ヴィラがそれを制した。
「随分な歓迎だったが、それはまあいい。お前に話がある、暴風王」
そして――会談が始まる。