1 魔界到着
俺はヴィラやアーニャとともに魔王用の執務室にいた。
「では魔界に移動するぞ」
「移動ってどうやるんだ?」
「私が移動用の術式を使えば、ものの数分で移動できる」
「そんな簡単なのか……」
「私の場合はな。他の魔族の場合は専用に作った次元門を通らなければ移動できん」
ヴィラが言った。
「そう簡単に人間界と魔界を行き来することはできないからな。私は魔王ゆえに、特別な術式や権能を備えている。あくまでも例外だ」
「じゃあ、俺たちはその次元門というのを通らなきゃいけないのか?」
俺が質問すると、
「いや、魔王の許可を得た者は、魔王と一緒に移動できる。一度に同時移動できるのは、私を含めて全部で五人までという制限はあるが――」
答えるヴィラ。
「今回はお前とアーニャの二人だ」
「上限ギリギリまで腕利きの魔族を護衛に付けた方がいいんじゃないか?」
「いや、それだとこちらが暴風王を警戒していると取られるかもしれない。護衛を減らすことで、私が暴風王を信頼している、と受け取ってもらえるだろう」
ヴィラが言った。
「信頼……か」
「暴風王は魔界随一の実力者。こちらとしても好き好んでケンカを売りたくはない。可能なら懐柔しておきたいからな」
と、ヴィラ。
正面切って戦えばいい、という相手ではないわけだ。
「もちろん、相手がどこまでも強硬に来るなら、最終的には戦うことになるだろう。だが、その状態をできる限り避けるのが、とりあえずの私の務めだ」
「分かった。俺も力を尽くす」
「あたしも~。がんばるからね、ヴィラちゃん!」
俺とアーニャが言った。
「頼りにしているぞ、二人とも。では出発だ」
ヴィラの転移魔法によって、俺たちは魔界へと移動した。
「ここが魔界だ」
とヴィラ。
「本当に数分で着いたな……」
俺は半ば呆然としつつ、魔界に降り立った。
赤茶けた荒野が地平線まで続いている。
空は曇天に覆われ、薄暗い。
ひっきりなしに雷鳴が轟き、いかにも『魔の世界』という感じの不気味な雰囲気が漂っていた。
「魔界には太陽がないからな。基本的にずっと暗いんだ」
ヴィラが言った。
「歩くときは足元に気を付けてくれ」
「太陽……ないんだ?」
「ああ。上空に弱い光源があって完全な闇ではないんだが――人間界に比べれば、かなり暗いはずだぞ」
「確かに……」
俺は足元を注意しながら歩いた。
目指す先は暴風王の居城だ――。







