22 心を重ねて
「キスして……っ!」
思いっきりド直球を投げられて、俺は固まってしまった。
「は、は、恥ずかしいんだからね、もうっ!」
ヴィラが真っ赤な顔で叫ぶ。
「でも、ちょっとでも……夫婦らしくなりたいから……っ!」
そうか、と悟る。
彼女はどこまでも真剣なんだ。
結婚するというのは戦略として捉えていない。
俺と夫婦という関係を築こうと――本気で俺に向き合っている。
「あ、その、キスを軽く考えてるわけじゃないよ? あたし、この間シオンとしたのが……は、初めてだったし」
……実を言うと、俺も初めてだったりするが。
「この間も観衆の前でしたけど、あれは必要なパフォーマンスっていうか、だから、その、ちゃんとそういう気持ちでキスするのって、初めて……」
一度目の、半ば勢いとは違う。
二度目の、国民へのアピールとも違う。
俺たちが心を通い合わせた上で交わす、最初のキス――。
「結婚式でいきなりするのは、緊張するから……ほら、練習というか……」
「そうだな、練習練習――」
俺は軽い口調で言いかけて、
「あ、もちろん、シオンが嫌なら拒否してね。あくまでも、お互いに同じ気持ちなら……したい、ってことだから」
ヴィラがうつむく。
「形だけの夫婦の方がいいっていうなら、シオンに従う……」
「形だけの……」
「……っていうか、それが当たり前だよね? あはは、あたしだけ舞い上がっちゃった……」
「いや、そろそろ俺もちゃんと自分の気持ちに向き合わないとな」
ヴィラを見つめた。
……逃げずに、向き合わないとな。
「シオン?」
ヴィラがキョトンとしている。
俺は大きく深呼吸し、息を整えた。
確かにヴィラの言う通り、恥ずかしいけれど。
勇気がいるけれど。
ヴィラがそうしているように、俺も本気で――。
「俺も、ヴィラと同じ気持ちだ」
彼女に告げた。
「ずっと宿敵として戦ってきた相手にこんな感情を抱くことを……最初は戸惑っていた。いや、今も戸惑いはあるんだ。俺が今感じている気持ちはなんなんだろう? って」
「シオン……」
「一時の気の迷いだったり、環境が急に変わったから、感情が正常に働いてないのか? とか……色々と考えた。けど、何度考えても、心の中心にある気持ちは一つだった」
俺はヴィラをまっすぐ見つめ、告げる。
素直な気持ちを。
「俺はヴィラのことを意識している、って。一人の女性として気になってるんだ」
「嬉しい」
ヴィラの答えはやっぱり直球だった。
「じゃあ、あたしのお願い……聞いてくれる?」
言われて、俺は彼女を抱き寄せ――。
そっと、唇を合わせた。
「ヴィラちゃん、ヴィラちゃん、大変だよ!」
「「……っ……!?」」
いきなり扉が開かれ、俺とヴィラは慌てて体を離す。
「ん、今……ちゅーしてた?」
部屋に入ってきた魔族――アーニャがジト目になった。







