5 そのころ、勇者パーティは1
勇者パーティの仲間たち視点です。次回は主人公視点に戻ります。
勇者シオンが率いる『勇者パーティ』と魔王国の王たる『魔王ヴィラルヅォード』との最終決戦――。
その結末は、シオンが自らの身を犠牲にした『勇者の最終奥義』により、彼も魔王もともに消滅した……というものだった。
「勇者シオンは最後まで立派に戦いました、王たちよ」
パーティの生き残りである四人の少女――『聖騎士ティアナ』『大聖女カトレア』『弓聖イングリット』『極魔道士ユーフェミア』の四人は、広間に集まった連合国の王や女王たちに報告を行っている。
「本当に、最後まで世界を案じて……消えていきましたわ……うう」
大聖女カトレアが涙ながらに語る。
「ボクたちは彼の勇姿を、その志を、決して忘れない」
力強く告げる弓聖イングリット。
「尊い犠牲……訪れた平和……感謝……」
ぼそぼそとつぶいたのは極魔導師ユーフェミアだ。
「シオン……ああ、シオン……ううう……」
王のそばで第一王女が涙に暮れていた。
彼女は、シオンに恋をしていた。
鈍感なシオン自身は気づいていなかったようだが、周囲からは公然の秘密のような扱いだった。
戦場から戦場へと飛び回るシオンを、遠いこの城から想い続けてきたのだろう。
そして、その想いは叶わないまま……絶たれた。
同じ女として、ティアナは彼女に同情した。
想い人を失うというのは、どれほどの苦しみだろう、痛みだろう。
そして、それを為したのは――自分たちだ。
罪悪感がないわけではない。
だが、それよりも――これからの自分たちに訪れるであろう輝かしい人生を思い、心が弾んでいた。
「ともあれ、魔王は滅んだ。シオンのことは残念だが、本当によくやってくれた」
「お前たちこそ、この世界の救世主だ」
王や女王が口々に賞賛する。
「さっそく魔王退治を記念したパレードを行おう。全員、出席してくれるな」
「もちろん。それと褒賞の方も」
ティアナが前に出た。
「おお、当然だ。各国からお前たちに出させてもらうぞ。ありとあらゆる望みを叶えさせてもらう」
王の一人が笑った。
彼は連合国でも中心となっている大国の王である。
いよいよ、ティアナたちの人生が開け始める。
前途洋々だった。
その日の夜は祝宴が行われ、翌日の夜はティアナたち四人だけでちょっとしたパーティを開いた。
「やったー!」
「おめでとうございます♪」
「これでボクたちは全員英雄だね!」
「報酬がっぽり……名誉も、男も……より取り見取り……」
魔王退治の祝勝会であり、自分たちの前途に対する祝賀会でもある。
「もしシオンが生きていたら、手柄のほとんどはあいつのものになったでしょうね」
ティアナが舌打ちする。
「勇者だからって一人だけチヤホヤされて、あたしたちはおまけ扱い……あー、思いだしただけで腹立つ」
「ティアナさんはシオンさんに告白して振られましたものね」
「あ、それ言わないでよ! べ、別に本気で好きだったわけじゃないし! ただ利用してやろうと思っただけだし!」
ティアナは気まずくなって叫んだ。
……正直に言うと、一時期は本気で彼に惚れていた。
ただ、打算も当然あった。
恋心と、『勇者の妻』というステータスと、その両面からティアナはシオンに惹かれていたのだ。
そして、意を決して告白したのだが――。
『魔王を倒すまで、そういった色恋に目を向ける余裕はないんだ』
そう言って、シオンは彼女の告白をきっぱりと断った。
屈辱だった。
今までティアナになびかない男などいなかった。
貴族や大商人の息子も、騎士団のエースも、王族も、多くの男たちが彼女に求愛してきた。
そのうちの十人程度をとっかえひっかえ恋人にしてきたが、誰もティアナを満足させることはできなかった。
自分に釣り合うのは、この世界で最高のステータスを持った男だけ。
世界を救う勇者シオンなら、それにふさわしい――そう思っていたのに。
「ふん、あたしを振った報いよ。いい気味♪」
ティアナはニヤリと笑った。