20 魔王様の乙女の悩み2
「ん、勇者と結婚って戦略的なものなんだよね? いわゆる『政略結婚』の一種でしょ?」
「まあ、そうだな……」
アーニャの質問にうなずくヴィラ。
我ながら歯切れが悪い答えで嫌になる。
シオンのことを他人に話すと、とたんに羞恥心が一気にこみ上げて冷静でいられないのだ。
「ねえ、もともとヴィラちゃんは勇者のことを意識してたの?」
「えっ、それは――」
「勇者と一緒にいても、そこまで緊張してなかったよね?」
「ああ。シオン相手に緊張……というのはないな。心がときめいたりはするけれど……」
「むむむ」
アーニャが不機嫌そうな顔になった。
「ま、いいか。ヴィラちゃんがあいつを意識してる風なのは気に食わないけど……とにかく、今までとは違うんだね?」
「ああ、明らかに……違う」
今までは、ここまで極端に気持ちが高ぶることはなかった。
一体なぜなのか――。
「うーん……たぶん『結婚』っていうのが引き金になったんじゃない?」
「えっ」
「今までも、たぶん潜在意識では強く意識していたのよ。ヴィラちゃん、純情だし。周りに同年代の男なんてほぼいなかったでしょ。恋愛経験もゼロだし」
「う、うむ……」
「そこに若くて凛々しい勇者登場! ヴィラちゃん、恋心一直線! ――になったわけ」
アーニャがぴんと人差し指を立てて解説する。
「……そ、そうだな。私はいつの間にかシオンにどんどん惹かれていった。けれど、その気持ちはちゃんと制御できていたつもりだ」
ヴィラが言った。
「私はこれでも魔王だからな。その責任感は持ち合わせているぞ」
「うん、そういうところ、すごく好き♡」
アーニャが投げキスをした。
「ま、とにかくヴィラちゃんは今まで自分を抑えていたわけよね? でも結婚となれば、もう抑えなくてもいい――無意識にそう思ったんじゃない?」
「……それはあるかもしれない」
「で、タガが外れちゃったんだろうね。自分でもどうやって自分の気持ちを制御していたか、分からなくなるくらいに」
アーニャがくすりと笑う。
「要するに――ヴィラちゃんは結婚という事実に舞い上がって暴走気味、ってことね。はい、あたしの説明おしまい!」
「そ、そんな単純なことだったのか?」
「そんな単純なことに気づけないヴィラちゃんは、本当に可愛い♡」
アーニャが笑う。
「とにかく、勇者からいきなり逃げたのはよくないんじゃない? 向こうは『ヴィラに嫌われたんじゃないか?』なんて不安になってるかもだよ」
「そ、それはいかん! 私はすぐに部屋に戻る!」
ヴィラは慌てて駆けだす。
と、その足を止め、
「ヴィラちゃん?」
「話を聞いてくれて、ありがとう。アーニャ」
「どういたしまして。お幸せにね、ヴィラちゃん」
言って、アーニャは小さく顔をしかめた。
「あーもう、あんなポッと出の勇者にヴィラちゃん取られて悔しい……」
最後に悪戯っぽく付け加えたのだった。







