13 勇者と魔王の結婚1
「勇者シオンが魔王国にいる、というのは人間側に大きなインパクトを与えたと思うの。その印象をさらに後押しするために、あたしとシオンが結婚するっていうのはどうかな――って」
ヴィラが言った。
顔が真っ赤だ。
「あ、あのっ、その、もちろん、これは形式的なものだからねっ。別に、あ、あたしとシオンが本当に結婚というか、その、夫婦生活を送るとか、えとえと、いちゃいちゃしたり、え、えっちなことしたり……そういうわけじゃないからっ……」
あわわわ、とヴィラがうろたえまくっている。
「【魔王――」
「いや、魔王級呪文はよそう!?」
俺はツッコみつつ、彼女の暴走をなんとか止めた。
「ご、ごめん、はずかしすぎて……ううう……」
ヴィラは泣きそうになっている。
「結婚か……」
「あ、えっと、不愉快にさせたなら、本当にごめんなさい……あたしの思い付きだから……」
「――悪くないんじゃないか?」
俺は思案しながら言った。
最初に聞いたときは突拍子もない提案だと思ったが、よくよく考えると選択肢としてはアリかもしれない。
「いちおう俺は世界的には『英雄』として扱われているはずだ。その英雄が魔王と一緒になる――魔王の国を認める、ってことだ。上手くいけば、人間たちにも魔王国は平和な場所だって認知してもらえる」
「上手くいかなければ、あなたは魔族側に付いた裏切り者、ということになる……やっぱりリスクが大きすぎるね」
ヴィラがため息をついた。
「思い付きだけでつい言っちゃった……本当にごめん。今の話は忘れて」
「いや、忘れない。俺はいいと思うんだ」
と、ヴィラに近づく俺。
「シオン……?」
「賭けてみたい……賭ける価値はあるよ。それで戦いを防げるなら」
「でも」
「第一、失敗したところで俺一人が非難されるだけだ。リスクは小さいよ」
「小さくない! シオンが犠牲になるじゃない!」
ヴィラが叫ぶ。
「俺がそうしたいんだよ」
俺はにっこりと笑う。
「人間たちに攻めこまれる魔族を見たときに、はっきり気づいたんだ。俺はもう――君たちのことが好きなんだって。守りたい、っていう気持ちに――」
「でも――もしあたしと結婚したら、シオンはもう人間側に戻れないんじゃない?」
「俺はもともと天涯孤独だよ。唯一の仲間で家族だとさえ思っていた人たちとも、もう……」
ティアナたちのことを思い出す。
「今は――ヴィラたちの傍にいたいし、ヴィラたちの力になりたいんだよ」
「シオン……」
俺たちは見つめ合う。
自然と顔を近づけ――。
唇が重なり合った。