10 再会
「どうして、魔王国にいるの? しかも魔王の傍に」
「それは――」
俺はヴィラに視線を向け、それからティアナに向き直った。
この状況をどう説明するべきか。
俺の立ち位置は、いまだに微妙だ。
魔王国で唯一の人間であり、魔王の宿敵だった『勇者』。
本来ならティアナたちの軍に合流し、魔王軍と戦うべきなんだろう。
けれど、俺はそうするつもりはない。
ヴィラたちと一緒の平和を目指したいから。
魔族が敵だなんて――もう思えない。
魔族を滅ぼしたいなんて――もう考えられない。
ただ、だからといって人間と敵対したいわけでもない。
「俺はゆえあって魔王軍に救われた。今は客人の身だ」
「はあ? 勇者が魔王軍の客人?」
ティアナが驚いた顔をした。
「……じゃあ、何? まさか、あなた――魔王軍に寝返ったわけ?」
「違う」
俺は首を左右に振った。
「俺は人間に敵対するつもりはない」
「なら、こちらに戻ってきたまえ」
ティアナたちの背後から一人の男が歩み寄る。
「私はパーシバルという。ゼーレン王国の王子をしている」
「王子……殿下」
「君は勇者なんだ。いつまでも魔王軍にいる理由はなかろう。それに勇者の力は貴重だ。ぜひ我が軍に力を貸してもらいたい」
パーシバルが俺に手を差し伸べる。
「――お断りします」
俺は首を振った。
「先ほども言ったように、俺は人間に敵対する気はない。ただ――魔族と敵対する気もないんです」
「……何?」
パーシバルが眉をひそめる。
「邪悪な魔族は、滅ぼすべき存在だろう? 勇者である君がその先頭に立たなくてどうする?」
邪悪な、魔族。
その響きがたまらなく嫌だった。
俺はパーシバルをキッとにらみつけ、
「魔族だって平和に暮らしている! それをおびやかす権利は、人間にはない!」
「勇者が、戯れ言を!」
一喝するパーシバル。
「戯れ言じゃない!」
俺は負けじと叫んだ。
「俺はこの国に来て、魔族にも幸せで平穏な生活があることを知った。一方的に敵だと思って戦っていたけど――それは間違いだった」
聖剣を構え、彼らに向き合う。
「魔王国は平和を望んでいる。それを脅かし、攻め入るなら――俺はお前たちを追い払わなきゃいけない」
人間に対する宣戦布告、だった。