8 人間の軍と勇者と魔王
領内に人間の一軍が押し寄せている。
前衛に戦士や騎士、後衛に魔術師や僧侶。
オーソドックスな陣形である。
魔族軍もそれに対抗しているが、押され気味のようだ。
人間たちが振るう剣で切り裂かれ、後衛から飛んでくる攻撃魔法や浄化魔法などで、次々に倒れていく魔族たち。
「やめろ!」
ヴィラが空中から雷撃の雨を降らせる。
ごばあっ!
前線から少し離れた場所に落ちた雷撃が小さなクレーターを作り出した。
さすがは魔王の呪文、その威力は健在だった。
人間側に当てなかったのは、今のが威嚇だからだろう。
「おとなしく去れ! 次は当てる――」
ヴィラが人間たちの軍を見下ろした。
「ひ、ひいっ……」
「魔王――やはり生きていたのか!」
ひるむ人間たち。
ヴィラは彼らの前に降り立った。
俺とアーニャも、その側に降り立つ。
「お、おい、見ろよあれ――」
「勇者様……!?」
人間たちが俺を見て驚いている。
「これ以上の戦闘を俺たちは望まない。おとなしく去ってくれ」
俺は聖剣を掲げた。
勇者が相手なら、こいつらも退いてくれるだろうか。
かすかな期待を込めての行動だったが、それは次の瞬間にあっさりと打ち砕かれることになった。
「に、偽物だ!」
騎士の一人が叫んだ。
きらびやかな鎧を見ると、指揮官クラスか。
手にした剣が淡い輝きを放っていた。
盾も同様に光っている。
どうやら魔法の武具を持っているらしい。
通常の武具に比べ、攻撃や防御、あるいは魔法能力などさまざまな効果が付与される『魔法武具』持ちは手ごわい相手だ。
だけど――ここで退くことはできない。
「もう一度言うぞ。去れ」
「馬鹿かお前は! 俺たちは魔王軍を倒すために来てるんだ! 世界に平和を取り戻すためにな!」
「魔族を必要以上に苦しめ、殺す必要はないだろう」
俺は首を左右に振った。
「ハア? 魔族だぞ? いくらでもいたぶって殺しゃあいいんだ。誰も文句なんて言わねーよ! なあ、みんな?」
「ははははは!」
「その通りだ!」
兵たちが同調して笑う。
醜い笑みだった。
これじゃ、どっちが魔族だか分かりはしない。
「これ以上は殺させない」
俺は聖剣を手に、魔法武具の騎士に向かっていく。
「死ね、偽勇者!」
騎士が斬りかかった
俺は聖剣でその攻撃をブロックした。
ぱきんっ。
「へっ……?」
呆然と立ち尽くす騎士。
俺の聖剣に触れたとたん、彼の魔法の剣が根元から折れてしまったのだ。
いくら聖剣とはいえ、ここまでの斬れ味があるとは――。
やはり、俺の力は以前よりもかなり上がっているようだ。
「もう一度だけ言うぞ、去れ」
シン、と人間たちの軍が静まり返った。