7 王国軍の侵攻2
「ふしゅぅぅぅ……」
黒焦げになっていた女騎士アーニャは数秒で再生した。
「おお、さすが魔族……」
再生速度が異常だ。
「あーびっくりした」
「今の、『びっくりした』で済む話なんだ……」
「もう、あいかわらずヴィラちゃんのツッコミは鋭いなー」
「だから魔王と呼べ……まあ、いいか」
ヴィラはため息をつくと、
「で、王国軍が攻めてきた、というのは?」
「うん、魔王国の南部地域に人間の一軍が攻め入ってきたの」
南部地域――先日の戦いで結界が破損している場所だ。
魔王の生存を知ったのか、あるいは一気に魔王国自体を滅ぼそうというのか、遅かれ早かれ攻めてくるとは思っていたが――。
「……ふむ」
ヴィラは何事かを考えるようにうつむき、やがて顔を上げた。
「シオン、いちおう最終確認だ――お前はどうする?」
「えっ」
突然の提案に俺は驚いた。
聞き間違いかと思って、彼女を見つめる。
ヴィラは優しい微笑みを浮かべていた。
「もう傷も癒えただろう? 人間の国に戻りたいなら、止めることはできん」
「ヴィラ……?」
まさか彼女は――俺に、人間の軍に加われと言っているのか?
そうしてほしいのか?
「お前は人間なんだ。心変わりをしたとしても攻められない」
「そんなことを言うなよ。俺は魔族だって守りたい」
俺は首を左右に振り、ヴィラを見つめた。
「短い期間だけど、この国にも人間の国と同じように平和や幸せがあることを――見てきたんだ。今さら『滅ぼす対象』として一方的に見ることはできない」
そう、だから決めたんだ。
俺はヴィラのそばにいる。
そして。
「人と魔族を守るために戦いたい」
俺はヴィラやアーニャとともに南部地域に向かった。
前にもヴィラと二人で乗った空中移動用の乗り物に、今回は三人で乗っているのだ。
「むむむ……人間を同行させるなんて」
アーニャは俺をにらんでいる。
露骨に警戒している様子だ。
まあ、無理もないけど……。
「見えてきたぞ。人間の軍だ」
ヴィラが眼下を指し示す。
小高い丘とその裾にある平原。
そこでは人間と魔族が激しい戦いを繰り広げている――。