5 俺が目指すものは
「……ありがとう、シオン。本当に心強いよ」
ヴィラはそっと目元をぬぐった。
涙が瞳からあふれている。
「嬉しい……」
俺はにっこりと彼女を見つめている。
と、
「あ」
ふと、何かに気づいたようにヴィラが口元を押さえた。
「どうかしたのか?」
「いろいろ気持ちが張り詰めて、話し方が『魔王』のままだったね」
「えっ?」
「なんか、二人っきりのときに『魔王』の口調だと恥ずかしくなってきちゃった……」
「そういうものなんだ」
「うん、もう今のこの話し方の方が楽。えへへ」
ヴィラが照れくさそうに笑う。
ああ、可愛いな。
俺は胸をときめかせながら彼女を見つめた。
まず魔王国全土の結界を修復し、できれば強化も施してから、魔界に戻る――。
ヴィラはそういう方針を打ち出した。
「シオンはどう思う?」
「ん。いいんじゃないか」
俺はうなずいた。
「でも、結界を強化することなんてできるのか?」
「ええ、確実じゃないけど、一つ当てがあるの。今までは人間軍との戦いが激しくて、なかなか実行できなかったけど、あなたがこっちに来てくれたおかげで、人間と魔族のパワーバランスも崩れると思うし、今なら実行できると思う」
「なるほど……」
「他にも、魔王竜バッシュの報告によると、竜牙兵の訓練が進んでるみたいだから、魔王国の防人として利用させてもらいたいと思ってる。効果があるようなら、他の竜族にも協力を仰ごうかなって」
「結界や竜牙兵によって防衛強化されて、人間軍が攻めこまなくなれば、その先に和平協定が見えてくるかもしれないな」
と、俺。
「ええ、お互いに手詰まりの状態を作ることができれば――」
「今は人間側が押しているからな……」
俺は小さくため息をついた。
まず、その戦況を五分五分くらいまで押し戻したいところだ。
――とそこまで考えて、ハッとなる。
もう、俺が魔王国側を中心に考えていることを。
いくらヴィラに惹かれているとはいえ、これじゃ人間たちから寝返りと言われても仕方がない。
それでも、俺は――。
ヴィラを見つめる。
「ん、どうかした?」
彼女がキョトンと首をかしげた。
それでも、俺は……!
あふれる思いを、明確な言葉にできなかった。
ただ、今はヴィラの傍にいたいと思うし、彼女の力になりたいと思っている。
もちろん、人間と敵対したいわけじゃない。
人も、魔族も、双方が幸せで平和に暮らせる道を歩みたいんだ。