4 暴風王
「ライオネルヅォール――ライオネル殿は、その二つ名の通り、風を操る眷属だ。先代魔王に匹敵……いや、凌駕するほどの力を持っている。そう、まさしく魔界最強――」
「魔界……最強」
俺はゴクリと息をのんだ。
それはつまり――ヴィラよりも強いということだろうか。
「単純な戦闘能力なら、私より上だ。確実にな」
俺の内心を読み取ったように、ヴィラが答えた。
「叔父上――いやライオネルの狙いはなんだ? 私の失脚か? 自分が新たな魔王の座を狙っているのか?」
「おそらくは――」
ヴィラの問いにその魔族はうなずいた。
「呪詛兵器を奪取し、人間界に撒く――というのが最初の計画でした。それにより人間の国々と魔王国との戦いは激化し、あなたの勢力を削ぐ、と」
「ライオネルの戦力はほとんどが魔界にいるはずだし、自分の力は温存したまま、人間たちに私の力を削らせようと……ふん」
ヴィラが鼻を鳴らした。
「あいかわらず狡猾な男だ」
「なあ、そのライオネルって男は魔界の王になりたいのか? それとも――人間界も狙っているのか?」
俺は一つ気になってたずねた。
「私も、あの方の野心についてすべてを知るわけではありません。しょせん私など末端ですから……」
魔族が言った。
「ですが、おそらく人間界も狙っているのではないでしょうか? あの方は口癖のように仰っていました。『俺は魔界の王にとどまらない。いずれ人も、神も、すべてを足元に跪かせてやる』と」
「神も――天上界にまで攻め入るつもりか」
ヴィラがうめいた。
「そんなことをすれば、魔界すべてが滅ぼされるぞ……」
魔王を狙う魔族らしい野心、といえるだろうか。
「神は慈悲深い存在などではない。敵対する者には容赦しない……」
ヴィラがつぶやく。
「決して刺激してはならない……その先にあるのは、すべての滅び……」
「すべて?」
「ああ。神がひとたび怒れば、その余波で人間界くらいは軽く吹き飛ぶ」
「えっ……!?」
俺は思わずヴィラを見つめた。
「魔界には斥候を送り、まずはライオネルの動向を探る。できれば私自身が魔界に行きたいところだが、人間たちがいつ攻め入って来るかも分からんからな」
俺はヴィラと話していた。
尋問を終えた魔族は引き続き捕らえてある。
折を見て解放することを検討している、とヴィラは言っていた。
「そうか。俺にできることはないかな?」
「……その前に聞いておきたい。シオンはこれから先どうするつもりなんだ?」
「えっ」
「お前はあくまでも人間だ。我らと運命をともにする義理はないだろう。お前が望むなら、いつでもここから出ていっていいんだぞ?」
言いながら、彼女の瞳は揺れていた。
本音がはっきり分かる。
出て行ってほしくない、と――。
「乗りかかった船だろ。放っておけないよ」
俺はにっこり笑った。
「君と一緒に戦うよ。いちおう勇者だからな。みんなが幸せに暮らせるために……みんなの笑顔のために、戦う。守る対象が人間でも、魔族でも、一緒さ」