17 そのころ勇者パーティは5
「封印完了――ですわ」
カトレアが大きく息をついた。
ヴ……ンッ。
淡く輝く光のドーム内に、王女メリーアンの死体が包まれていた。
これは一種の結界魔法だそうだ。
ドーム内に入っているものは、外部からの探知を受け付けなくなる。
完全に封印された状態だ。
王族の体には特殊な魔法結界が幾重にも張られていて、何か異変があれば魔法探知で簡単にバレてしまうだろう。
それを防ぐために、こうしてメリーアンの死体を封印したのだ。
「とりあえず、この状態にしておけば死体が見つかることはないわけね」
ティアナもホッと安堵の息をもらす。
「でも、これって一時しのぎにしかならなくない~?」
イングリットが言った。
「直接ここまで来れば、見つかっちゃうわけでしょ?」
「当然、他にも証拠隠滅のための工作が必要……」
と、ユーフェミア。
「何か策でもあるの?」
「手っ取り早いのは注意を他に向けさせること……」
ティアナの問いに答えるユーフェミア。
「注意を……」
「たとえば、新たな世界の脅威」
と、ユーフェミアが言った。
「世界の脅威?」
「魔王ヴィラルヅォードはまだ生きている。おそらく遠からず、再侵攻が始まる――」
「再侵攻、か。でも魔王自身はかなりのダメージを受けたはず。その傷が簡単に癒えるとは思えない」
ティアナが言った。
「魔王以外の相手なら、シオンがいなくても、あたしたちだけでなんとかなるよ、きっと」
「まあ、四天王も全部倒しちゃったしね」
魔王四天王――ヴィラルヅォードの最強の側近四体は、すでに勇者パーティによって討たれていた。
いくら魔王が生きているとはいえ、彼女自身がすぐに戦闘に復帰することは難しいだろう。
攻めてくるのは、四天王より劣る魔族たち。
ならば、こちらに勇者がいなくても、ティアナたち四人でどうにでもなる。
「……そうとは限らない」
ユーフェミアが首を左右に振る。
「魔王は……一体じゃない」
「えっ」
「魔術師ギルドの古い伝承――禁書のたぐいから調べたことがある。魔族とは、そもそも亜人種ではなく『異世界人』だと……」
ユーフェミアの言葉にティアナたちは押し黙った。
初めて聞く話だった。
魔族とは、エルフやドワーフと同じく亜人に過ぎないのだと思っていた。
それが世界の定説だった。
だが――違うというのか。
「彼らは、こことは違う世界――『魔界』から現れた生物」
ユーフェミアが言った。
「魔王ヴィラルヅォードに匹敵する魔族が、その魔界には数体いるはず」
「魔王クラスが数体……!?」
「もしも彼らがいっせいに人間界に侵攻してきたとしたら――」
ユーフェミアがうめく。
「間違いなく、世界は滅ぶ」