15 真の魔王について
「さっきの魔族が言っていた『真の魔王』ってなんのことだ?」
俺はヴィラにたずねた。
彼女は少し思案した様子を見せ、それから話し始めた。
「どこから説明したらいいかな……そうね、まず魔王というのは代替わりしていくのよ」
「ああ、数百年前には別の魔王が人間の国々を侵略したっていう伝説が残ってるな」
言って、俺はハッとなった。
「いや、魔族を一方的に悪く言うつもりはない。すまない」
「いえ、そのときの魔王――ヴァレルギスヅォードは自らの野心のままに、多くの国を侵略したの。まさしく悪の魔王ね」
と、ヴィラ。
「でも、君は違うんだろう」
俺は彼女を見つめた。
「……そのつもりよ」
うなずくヴィラ。
「で、ヴァレルギスヅォードは先代の勇者に討たれ、その後に新たな魔王を決めることになったの。あたし以外にも何人かの候補がいて……最終的にはあたしが選ばれた」
「魔王候補……」
「基本的に魔族は血統主義で、魔王も名門の血筋から決められるのよ。人間の王国でもそういうところ、あるでしょ?」
「ああ、王位継承権が設定されている感じだな」
「魔族も似たようなシステムなの。あたしは王族の出身で、先代の娘。他の候補はあたしの弟と、後は近い親戚たちね」
「真の魔王ってやつに心当たりは?」
「おそらくあたしと同じ次期魔王候補だった一人でしょうけど……誰なのか、特定はできない」
俺の問いにヴィラは首を振った。
「ただ、今回のことで何か尻尾を出すかもしれない。信頼できる者に調べさせようと思ってる」
「そいつがヴィラの魔王の座を狙ってるのかな……?」
「分からない。あたしが人間界にいる間、魔界で何か工作をしているかもしれないし……」
「……魔界?」
なんだ、それ。
初めて聞く単語だった。
「ああ、人間たちには知られていないことだったかもしれないね。あたしたち魔族はこの世界で生まれた種族じゃない。『魔界』という別の世界から来たのよ」
「な、なんだってー!?」
俺は思わず驚きの声を上げた。
「えへへ、びっくりした?」
いたずらっぽい笑顔になるヴィラ。
うっ、そういうところも可愛い。
なんだか、どんどん彼女に惹かれていく自分を感じ取ってしまう。
一つ一つの仕草を見るたびに、心がときめいてしまう――。
「や、やだな、あんまり見ないで……」
気が付けば、ヴィラが照れた顔をしていた。
「あ……俺、そんなに君のことを見てた?」
「見てた。ガン見してた」
「ごめん、ちょっと見とれてた」
「っ……!」
ヴィラはますます顔を赤らめる。
「そう言うの、ストレートに言うの……ほんと、ずるい」
「そうか?」
「あたし、ドキドキしっぱなしだから」
「俺だって……」
言いながら、俺たちは見つめ合う。
もっと、君に触れたい――。
俺の気持ちはさらに高まっていた。
「ご、ごめんね、はなしのこしを折っちゃったね……」
ヴィラが謝った。
「魔界の話を続けるね?」
「あ、ああ……」
正直、今は魔界の話よりもヴィラと見つめ合ったり、触れ合ったりしてみたかった。
……なんて言えないので、俺は残念に思いつつも、うなずいたのだった。







