11 王女メリーアン2
ティアナたち四人が勇者シオンを自爆させ、魔王もろとも殺した――。
それは倫理面からすれば非難されるべき所業だが、方法はどうあれ、彼女たちが世界を救ったのは事実だ。
魔王を倒すために、勇者の自爆は仕方のない戦法だった――そう抗弁されれば、賛同する者もいるだろう。
いや、多数の者が支持するかもしれない。
なんといっても、彼女たちは美しい。
世界を救ったヒロインたちは、人気も抜群である。
あるいは彼女たちは『仲間である勇者を、心を鬼にして殺し、世界を救った悲劇の英雄』というように自らを演出するかもしれない。
そうなれば、彼女たちの罪を問いたくても、世論が彼女たちを擁護するかもしれない。
どうしても、それだけは避けたかった。
彼女たちの罪は裁かれなければならない。
勇者シオンを殺した罪を――メリーアンの愛しい男性を殺した罪を、絶対に裁かなければならない。
勇者殺しと王女殺し未遂。
二つの罪が重なれば、さすがに彼女たちは糾弾されるだろう。
だからこそ、自分の身を危険にさらしてまで、単身でティアナたちの前に立ったのだ。
想定通り――いや、想定以上にティアナが短期だったため、メリーアンはあっさりと『殺され』た。
ただし――三日後には目覚めるように、特殊な加護アイテムを身に付けて。
王族に伝わる秘宝――『仮死の護符』。
これを身に付けたメリーアンは、誰かに致命的な攻撃を受けると、いったん仮死状態になり、同時に不可視の結界に包まれて、それ以上の追加ダメージを受けなくなる。
その状態で三日を過ごした後、目覚めるのだ。
国民はメリーアンが生き返ったと騒ぐだろう。
そんな彼らの前でティアナたちの所業をすべて明かしてやる――。
メリーアンは悲壮な覚悟と決意のもと、ティアナたち四人を王城に呼び出したのだった。
「あなたが真実を明かせば、あたしたちは大罪人として糾弾される。申し訳ありませんが、口を封じさせていただきます」
ティアナが剣を手に近づいてくる。
メリーアンを殺すつもりらしい。
思ったよりも短絡的な思考をする女だった。
他の三人は驚いたような、あるいは戸惑ったような様子だ。
「い、いや、やめて……」
メリーアンはおびえた演技をした。
ここで落ち着き払っていては、彼女がなんらかの蘇生手段を用意していると、バレてしまうかもしれない。
「ま、まさか、王女であるわたくしを殺すつもりはありませんよね? いくらなんでも――」
「はっ、自分が王女だから殺されないとでも思っていたの? とんだお花畑ねぇ」
ティアナがニヤリと笑った。
醜い、と感じた。
容姿は美しいが、ティアナの本性は本当に醜い。
こうしてメリーアンを追い詰め、殺せる状況に歓喜していることが伝わってくる。
「お願い、やめ――」
「あなたを殺さないと、あたしたちは破滅なのよ! 死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ティアナは剣を振りかぶり、そのままの勢いで振り下ろした。
戦闘の素人であるメリーアンにそれを避けるすべはない。
熱い痛みが肩口から胸元を、さらに腰のあたりにまで突き抜けていった。
「ああ……」
自分は死ぬのだ、と悟る。
あとは『仮死の護符』が作動することを願うのみ。
彼女たちの悪行を暴くために――自分の計画が成功することを祈るのみ。
そして、メリーアンの意識は霧散した。







