10 王女メリーアン1
――時間は、少しさかのぼる。
王女メリーアンは、勇者シオンを愛していた。
心の底から愛していた。
最初の出会いは、とある大臣がメリーアンに暗殺者を放ち、殺されそうなところをシオンに救われたことだった。
クーデターを企てていた大臣は、シオンたち勇者パーティの活躍もあって捕縛された。
その戦いの際、傷を負った彼はしばらく王国に滞在することになり、メリーアンは救われた礼代わりに甲斐甲斐しく看病したのだ。
戦いのときの勇猛な姿とは裏腹に、普段の彼は穏やかな少年だった。
むしろ戦いを忌避しているほどだ。
だが、魔王に対抗できる唯一の武器――『聖剣ファリアレイダ』に選ばれたことで、シオンは有無を言わさず勇者として任命され、戦い続けることになった。
『本当は――戦争なんかより、平和に暮らしていたいんです』
あるとき、シオンはこっそり打ち明けてくれた。
彼の優しさに、メリーアンは惹かれていった。
そして、シオンが望む平和な世界が訪れるよう、彼女も自分にできることをやろうと立ち上がった。
王女として各国をつなぎ、魔族に対抗する戦線を強力なものにしよう――と。
それが勇者へのパックアップにつながるのだから。
メリーアンの精力的な活動もあって、各国は次第に一つにまとまっていき、魔族と人間の戦いも、人間有利に傾いていった。
やがて魔王との最終決戦を迎えた。
『この戦いが終わったら……私、シオン様と』
メリーアンは戦いの後、シオンに告白するつもりだった。
彼が自分をどう思っているのかは分からない。
恋人同士になれるかどうかも分からない。
だが――告白の機会は永遠に失われた。
魔王との戦いで、勇者は禁じられた最終奥義を使い、自爆し、魔王もろとも滅んだのだという。
その報告を受けたとき、彼女は崩れ落ちた。
一週間の間、ほとんど何も食べられず、死人同然に動くことさえできなかった。
悲しみに暮れながらも、やがて気丈に立ち上がったメリーアンは、その『勇者の最終奥義』について調べてみた。
すると、ティアナたちの話とは、事実が異なることに気づく。
ティアナたちはこう言っていた。
『勇者シオンは自分の意志で「自爆奥義」を使い、魔王を道連れにした』と。
だが、実際には『勇者の自爆奥義』とは他者が無理やり作動させるものらしい。
ならばそれを作動させたのは誰か?
言うまでもなく、ティアナたちだ。
愛しいシオンを殺したのは、彼女たちだ。
とはいえ、シオンがそれを望み、彼女たちに自爆を頼んだのかもしれない――。
そうも考えたが、ならばティアナたちは正直にそういうはずだ。
何もやましいところがないのなら。
そう――彼女たちには、やましいところがあったのだ。
だとすれば、彼女たちのやったことは『勇者殺し』である。
絶対に、許すことはできない。
「それが真実なら――報いを受けさせてやる……!」
純真無垢だった王女の心に、ドス黒い復讐の炎が燃え上がった。