9 重なる心と
――捕縛した魔族は、後ほど尋問するために王城の地下に幽閉された。
俺はヴィラの私室に招かれ、話していた。
「まず謝らせてくれないか、ヴィラ」
「シオン……」
「君が、呪詛兵器を使おうとしていた――なんて、やっぱりあり得ない。呪詛兵器を前にしたヴィラの態度を見れば、それは分かる。忌まわしい兵器を使って人間界を汚染する――そんなことを考えているはずがない、って」
「シオン……」
「だから俺は、ヴィラを信じる」
はっきりと、告げる。
「一瞬でも疑って悪かった。許してほしい」
俺はヴィラに頭を下げた。
「あたしは、何度も裏切られてきたの」
ヴィラが絞り出すように告げる。
「臣下に、友に、親にさえも……! だから怖い……あなたは、本当にあたしを信じてくれるの?」
ヴィラがたずねる。
「そうだ。短い時間であっても、俺はヴィラと過ごす中で、温かさに触れた気がする」
俺は力を込めて言った。
「そのぬくもりを信じてみたいんだ」
「……あの状況で疑うのは当然でしょ」
ヴィラが微笑んでいた。
「それよりも、信じてくれたことが嬉しいの。シオンには――シオンにだけは、信じてほしいから」
「ヴィラ……」
「あたしはね、誰かを信じるのが怖い……」
ヴィラが、絞り出すようにつぶやく。
「信じると言ってくれても、後から裏切られるかもしれない、とどうしても思ってしまう――あたしだってシオンを信じたいのに……! 心のどこかに恐怖感があるの……」
今までの生で裏切られ続けたから、信じた後に裏切られるのがつらい……そういうことなんだろうか?
俺も、それはなんとなく分かる。
俺自身が信じていた仲間たちに裏切られたばかりだからな。
ティアナ、カトレア、イングリット、ユーフェミア……。
みんな、素晴らしい仲間だと思っていたのに。
笑いながら俺を自爆させ、魔王ごと殺そうとした。
「――でも、やっぱり信じたい」
「俺もだ、ヴィラ」
俺は彼女を抱きしめた。
ヴィラの体のぬくもりが伝わってくる。
温かさ――。
そう、この国に来てから感じ取った空気。
人々の優しい空気。
そしてヴィラ自身の、俺を癒してくれるような気配。
それらが、俺の心を溶かしてくれた気がする。
魔族への敵対心や憎しみを、溶かしてくれた気がする。
だから俺は、ヴィラを信じたいと思った。
お互いの視線がぶつかり合う。
気が付けば、俺たちはジッと互いを見つめていた。
気が付けば、少しずつ顔が近づいていた。
気が付けば、俺たちは顔を寄せ合い――唇を、触れ合わせていた。
お互いの心を、より深く通わせるために。







