2 勇者復活
魔王は次話からデレていきます(´・ω・`)
「生きてる――?」
あれだけの攻撃を受けながら、なぜか助かったようだ。
いや、そもそも俺は勇者の最終奥義で自爆したはずじゃ……?
だが見た感じ、俺の体は包帯でグルグル巻きにされ、あちこち傷の痛みは残っているものの、手足を失ったり、致命的な負傷をしている様子はない。
「どうやら、あれは自爆技ではなかったようだな」
誰かが近づいてきた。
この声は、まさか――!?
俺は驚いて振り返った。
薄桃色の長い髪に青い宝玉のような瞳。
そして、きらびやかな装身具をまとった長身。
魔王ヴィラルヅォードだった。
「生きていたのか――」
全身がこわばった。
今の俺は丸腰だし、この体でどこまで戦えるか。
「……お前が守ってくれたおかげだ」
魔王の表情は穏やかだった。
笑みを浮かべている。
少なくとも闘志や殺気のたぐいはまったくなかった。
とりあえず、いきなり襲いかかってくることはなさそうだ。
俺は警戒しつつ、彼女を見据えた。
「勇者シオン……礼を言おう。お前が最後の力で転移してくれたから、私はこうして生きている」
「えっ? えっ?」
転移?
一体、なんの話だ――。
「今度は私がお前を助ける番だ。魔王軍の中で最高ランクの治癒術師をそろえた。ゆっくりと体を癒してほしい」
見れば、寝台に横たえられた俺の周囲に、十人以上の魔族がいる。
いずれも神官衣のような服を着た美女たち。
ヴ……ンッ。
彼女たちがかざした手から緑色の光が放たれ、俺の全身を包んでいる。
「うっ……」
痛みが徐々に引いていく。
同時に、少しずつ……ほんの少しずつだが、失われた体力が戻っていく感覚があった。
とはいえ、まだベッドから降りるほどの気力はなかった。
こうして上体を起こしているだけで、かなり疲労してしまう。
魂そのものが抜けてしまったような強烈な虚脱感があった。
「まさか、魔王軍に救われるとはな……でも、人間を助けてもいいのか?」
「お前は私の恩人だ」
魔王が言った。
穏やかな微笑みを浮かべている。
そこには邪悪な気配はまったくなかった。
俺を慈しむような笑顔だ。
「……人間が憎くないのか?」
呆然としたまま、俺は魔王にたずねた。
「魔族は――人間の恐怖を食らうんだろう? だから世界を征服しにやって来た」
「それがそもそもの誤解だ。私たちの望みは平穏にくらすことだけ」
と、魔王ヴィラルヅォードが言った。
「平穏に? 魔族が?」
「……お前たち人間は我々魔族を悪の化身だと思いこんでいるからな。信じられないか?」
「まあ、その……」
俺は口ごもった。
実際にこうやって命を救われ、治療を受けているんだし、反論できない。
とはいえ、今まで邪悪だと信じていた連中が、『実は違います』と言われても、戸惑うばかりだ。
「とにかく、今は傷を癒してくれ。考えるのは、その後でもよかろう
「……魔王」
俺は彼女に言った。
「ん?」
「恩に着る」
複雑な気持ちを押し殺し、俺は魔王に目礼した。
俺は治癒術師や魔王自身の秘術もあって、徐々に傷を癒されていった。
とはいえ、通常のケガとは違い、勇者の自爆技はそう簡単には回復しないようだ。
本当にじれったくなるほどの回復速度。
そして――治り始めた俺の体は、以前と少し違っていた。
ここに来てから二日後、俺はベッドから降りて部屋を出た。
と、そこに魔王がやって来る。
「……どこに行くのだ、シオン?」
「ちょっと城の中庭まで。許可をもらえるか?」
俺は魔王に言った。
「君たちと敵対行動をするつもりはない」
「お前は私の客人であり恩人だ。許可などいらん。城の内外を自由に散策してくれ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらう。体がなまらないように剣の訓練をしたいんだ」
「武器庫に行けば、好きな剣を貸してくれるぞ……いや、お前には専用の聖剣があったか」
「聖剣――」
うっかり失念していた。
俺の剣は、まだちゃんとあるだろうか。
「【聖剣召喚】」
しゅんっ……。
唱えたとたん、俺の手にひとふりの長剣が出現した。
黄金の刀身に真紅の柄。
柄頭には巨大な宝玉がはめこまれている。
神が勇者に与えた聖剣『運命を紡ぐ剣』だ。
「その剣、どこから出てきたんだ?」
不思議そうに首をかしげる魔王。
「聖剣は普段、異空間にしまってあるんだ」
言ってから、しまったと思った。
聖剣の保管場所なんてトップシークレットである。
魔王に明かしていい情報じゃない。
けれど、一方で彼女に言ってしまっても、別にいいかという気持ちもあった。
俺はもう、勇者であることに疲れたのかもしれない。
「あ……聞くべきではなかったな。今はともかく、いずれは敵同士になるだろうに……すまない」
「はは、魔王が勇者に謝るなんてな」
俺はつい笑ってしまった。
「む、本当に申し訳ないと思っているのだぞ?」
「あ、ああ、茶化すつもりはないんだ。こちらこそ、すまない」
俺は魔王に頭を下げた。
それから互いに見つめ合い、微笑んでしまった。